JARPN IIでは、鯨類の摂餌生態の理解を最優先課題としています。
すなわち、鯨類が餌として消費している生物の種類や消費量を詳細に調べることによって、鯨類が餌生物としている魚類などの資源にどの程度の影響を与えているかを見積もり、更に、海の中に生息する生物と鯨の胃内容物を比較することで、どの種類の鯨がどのような種類の生物を利用しているか(嗜好性)などを明らかにすることです。
最終的には鯨類と餌生物の食う・食われるの相互関係を基にした生態系モデルの構築を進めて、鯨類を含む日本周辺海洋生物資源の複数種一括管理に貢献することにあります。
その為に、計量魚探という特別な魚群探知機を搭載して表中層トロール網を曳くことの出来る船を、鯨を採集する3隻の船の他に投入して、鯨類を含む海洋生物の実態を明らかにすることを目指しております。
また、鯨類の目視調査を専門とする調査船も使用しております。
今年度は第2回目のJARPN II本格調査として沿岸域調査を4月10日から5月2日、沖合域調査を5月17日から8月8日にかけて実施しましたが、比較的天候にも恵まれて、両調査とも予定調査期間内に計画通りの標本数を得て終了することが出来ました。
また、以下のような鯨類の摂餌生態に関する重要な情報を得ることに成功しました。
@ 本年4月上旬から5月上旬にかけて三陸沖で実施していた沿岸域鯨類捕獲調査では、ミンククジラは、主としてオキアミ類とイカナゴ類を捕食していることが明らかになりましたが、これと隣接する沖合側の海域では、主として12cmの大型のカタクチイワシを捕食していることが判り、ミンククジラは、春季の三陸沿岸から沖合にかけた海域においても多様な餌を利用していることが明らかになりました。
A 沖合域のミンククジラは、調査の早い時期(5から6月)にはカタクチイワシ、また遅い時期(7・8月)にはサンマを主要餌として利用しており、餌生物の季節変化が認められました。
さらに、沖合の9海区では、シマガツオやシロザケも利用していることが判明し、幅広い海域で、オキアミ類から、カタクチイワシやサンマといった表層性小型魚類のみならず、シマガツオやシロザケなどの中型の魚類までも利用する広範な食性を有していることが、さらに明確になりました。

ミンククジラ餌生物 サンマ(平均体長27cm)。
食用となる大型サンマはミンククジラの主要な餌生物の一つです。(最高重量:106kg)

ミンククジラ餌生物 シロサケとシマガツオ。
ミンククジラは沖合域ではサケやシマガツオも捕食しています。
B ニタリクジラは、南側の海域において、沿岸から沖合まで(7海区、8海区及び9海区)に広く、また多数分布していることが、今年の調査からも確認され、昨年の結果(主に沖合域のみに分布)とは異なっていました。
しかしながら、これらのニタリクジラも5月から6月には殆どがオキアミ類を捕食し、7月にはカタクチイワシを主に捕食するなど、昨年までの調査結果と同様に、季節によって餌生物の変化が観察されました。
年変動については、餌生物の分布や海洋構造とも併せて今後検討していく予定です。

ニタリクジラ餌生物 カタクチイワシのシラス(平均体長29mm)。
ニタリクジラは成魚だけでなくシラスも利用しています。

イワシクジラ餌生物 カタクチイワシ(体長12cm)。
8海区の早い時期には最も多く捕食されていました(最高で500kg)。
C 多数のイワシクジラが、沖合(9海区)に分布することが今年の調査でも確認されました。
これらのイワシクジラからは、カイアシ類などの動物プランクトンからカタクチイワシなどの表層性魚類まで幅広く捕食していることが観察されましたが、ミンククジラや二タリクジラのような季節や海域での明確な食性の違いは認められませんでした。
しかしながら、同じ日に同じ海域で採集したイワシクジラでも、餌生物が異なるケースが観察されており、限られた海域の中でも条件によって多様な餌を利用していることが示唆されました。
D ミンククジラとイワシクジラはほぼ同じ海域で発見されましたが、両種で同一の餌生物を利用している場合があり、鯨類間での餌生物を巡る競合関係が存在する可能性が示唆されました。
その一方で、両種が異なる餌生物を利用している海域も観察されており、鯨種間の競合関係については、餌生物の分布量や鯨類の嗜好性の課題とともに、今後十分に検討していく必要があると考えられます。
E マッコウクジラは、今年の調査では沖合(8及び9海区)での採集も実施し、沿岸でも沖合でもヒロビレイカやクラゲイカなどの中深層性イカ類を主に捕食していることが判るなど、著しく不足しているマッコウクジラの食性に関する情報の蓄積を行うことが出来ました。

マッコウクジラ餌生物 ニュウドウイカ(外套長約100cm)。
中深層性のイカ類を捕食していました。