(1)本年度の調査では、例年に比べて台風の接近も少なく、比較的良好な天候に恵まれ、ミンククジラやイワシクジラをはじめとして、シロナガスクジラやナガスクジラなど多種にわたる鯨類を数多く発見して、調査を順調に進めることができ、ほぼ計画通りの標本数を得て終了しました。
(2)本年度の調査では、7、8海区及び9海区の全海域にわたって調査を実施しました。その結果、以下のような興味深い鯨類の摂餌生態に関する情報を得ることが出来ました。
@ これまでの調査では、ミンククジラは日本沿岸から沖合にかけて広く分布し、海域や時期によって餌生物種を変え、沖合域では初夏(5〜6月)にカタクチイワシを、盛夏(7〜9月)にサンマを捕食し、沿岸ではオキアミやイカナゴ、カタクチイワシ、サンマ、スケトウダラと幅広い餌生物種を利用していることを明らかにしてきました。
また、昨年のように、初夏であってもカタクチイワシの捕食が認められないなど、食性にも年変動のあることが示されました。
本年度調査では、ミンククジラは、通常の年に認められるように、初夏に主としてカタクチイワシ、また盛夏にサンマを捕食しており、これまでに把握した年変動の範囲内にあることが明らかになりました。
JARPNU調査では、鯨類の餌環境についても同時期に調査を行っており、今年は計量魚探を装備した第二共新丸が、餌生物の分布や存在量の調査を行っています。
今後のクジラと餌生物の両面からの解析によって、ミンククジラの摂餌生態が明らかになるものと考えられます。
A イワシクジラは、三陸沖から東経170度までの調査海域に広く分布して、カイアシ類やオキアミ類などの動物プランクトンから、サンマやカタクチイワシなどの魚類まで、広範な餌生物種を利用していることをこれまでの調査から明らかにしてきました。
今年のイワシクジラの特徴としてカタクチイワシが主要な餌生物であったことがあげられます。
例えば、6月〜7月に調査した沖合南側(9海区南側)では、本種は主にカタクチイワシを捕食していましたが、昨年の調査ではカイアシ類やオキアミ類が主要餌生物でした。
また、8月に調査した沖合北側(9海区北側)では、カイアシ類やオキアミ類、サンマ、カタクチイワシが主要な餌生物として観察されましたが、昨年はこれらのうち、カタクチイワシは主要な餌生物として観察されませんでした。
このことは、イワシクジラがミンククジラと同様に時期や海域によって異なる餌生物を利用していることを示すとともに、その食性に年変動がある可能性を示しています。
B ニタリクジラは、夏季に北緯40度以南に広く分布して、主にオキアミとカタクチイワシを捕食しています。
またその分布には年変動のあることをこれまでの調査から明らかにしてきました。
今年は、通常の年と同様に調査海域の東西に広く分布しており、昨年のように西側に偏った分布は認められませんでした。
また、今年の調査では、これまで情報が少なかった盛夏の沖合側(9海区)において同種の採集を行い、新たな情報の収集を行いました。今年の調査から、ニタリクジラがオキアミ類やカタクチイワシを主に捕食するのに加えて、中深層性魚類のヤベウキエソも利用していることが確認されました。
このヤベウキエソは、商業捕鯨時代にもニタリクジラの餌生物として記録されていたものですが、捕獲調査ではこれまでほとんど観察されていない魚種です。
C マッコウクジラは、これまでの調査で情報の少なかった沖合北側(8及び9海区北側)での標本の採集に努め、6個体を調査しました。
その結果、これらの個体は、ヒロビレイカやクラゲイカなどの中深層性イカ類を主に捕食しており、また沖合においても、中深層性魚類を利用していることなど、マッコウクジラの食性に関する最新の情報が蓄積されました。
D 本調査では、鯨体の捕獲調査のみならず、衛星標識やデータロガーの装着などの技術を用いた鯨類の生態に関する情報の収集も同様に行っています。
7月の調査中に、ニタリクジラ3頭及びイワシクジラ1頭に対して衛星標識の装着を試み、その内ニタリクジラ1個体について同標識の装着と同標識から発信される位置情報を衛星を介して入手することに成功し、3週間にわたって位置情報を収集しました。
E シロナガスクジラやナガスクジラなどの大型のヒゲクジラ類も、沖合で数多くの発見があり、自然標識撮影実験やバイオプシー採集実験を実施して、画像や組織標本の収集を行いました。