第二期北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPNU)は、国際捕鯨取締条約第8条(別記参照)に基づいて当研究所が政府の許可を受けて実施しており、2000年より2年間の予備調査を経て、2002年より本格調査を実施しています。調査の概要は以下のとおりです。
(1)調査目的:
@ 鯨類の摂餌生態、生態系における役割の解明
A 鯨類及び海洋生態系における海洋汚染の影響の把握
B 鯨類の系群構造の解明
(2)調査海域:
北緯35度以北、日本沿岸から東経170度にかけた北西太平洋(IWC管理海区7、8、及び9海区)の一部海域。

図1.JARPNIIの調査海域。
(3)標本採集頭数
本年度の調査における予定標本数は昨年と同様で、次の通りです。
ミンククジラ 100頭
イワシクジラ 100頭
ニタリクジラ 50頭
マッコウクジラ 10頭
この他、同計画のもとで、ミンククジラを対象とした沿岸域調査が、春に三陸沖で、また秋に釧路沖で実施されています(予定標本数は各60頭の計120頭)。
(4)調査結果
本年度の沖合域調査は、台風の接近や長期間の霧に悩まされながらも、ミンククジラやイワシクジラをはじめとして、シロナガスクジラやナガスクジラなどを含む多種にわたる鯨類を数多く発見して、調査を順調に進めることができ、ほぼ計画通りの標本数を得て終了しました。
今年の調査では、7、8海区及び9海区のほぼ全海域において調査を実施しました。その結果、以下のような興味深い鯨類の摂餌生態に関する情報を得ることが出来ました。
@ これまでの調査では、ミンククジラは日本沿岸から沖合にかけて広く分布し、海域や時期によって餌生物種を変え、沖合域では初夏(5〜6月)にカタクチイワシを、盛夏(7〜9月)にサンマを捕食し、沿岸ではオキアミやイカナゴ、カタクチイワシ、サンマ、スケトウダラと幅広い餌生物種を利用していることが明らかになりました。
今年度の調査では、これまでの知見と異なり、沖合域の初夏であっても、ミンククジラの胃からはカタクチイワシは認められず、むしろマサバやサンマなどが認められており、一昨年度と同様の傾向を示しました。一方、初夏の三陸沖から道東沖では、これまでの調査結果と同様に、主にカタクチイワシを主要餌生物として利用しており、利用している餌生物種が沿岸域と沖合域とで異なることが明らかになりました。また、盛夏にミンククジラの主要餌生物となるサンマが、今年度調査からはほとんど認められていませんが、これはミンククジラを採集した時期が従来よりも早かったことに起因すると思われます。
A イワシクジラは、三陸沖から東経170度までの調査海域に広く分布して、カイアシ類やオキアミ類などの動物プランクトンから、サンマやカタクチイワシなどの魚類まで、広範な餌生物種を利用していることを明らかにしてきました。
今次調査では、イワシクジラは、沖合域では、初夏(5〜6月)に調査海域の南側に分布して、主にマサバを捕食しており、一方、盛夏(8月)には北緯45度付近にまで北上してカイアシ類及びカタクチイワシを主要な餌生物として利用していることが明らかになりました。このことは、イワシクジラがミンククジラと同様に北上とともに時空間的に異なる餌生物を利用している可能性を示唆しています。
B ニタリクジラは、夏季に北緯40度以南に広く分布して、主にオキアミ、カタクチイワシ及びヤベウキエソを捕食し、分布にも年変動のあることをこれまで明らかにしてきました。
今次調査では、盛夏(7〜8月)の沖合域(8、9海区)において、ニタリクジラが主要な餌生物としてカタクチイワシを利用している実態が明らかになりました。また、今次調査では、5月から6月にかけて沖合域の南側を調査しましたが、ニタリクジラは殆ど発見されず、盛夏(7〜8月)になって調査海域の南側に回遊してきたことが明らかとなり、ニタリクジラの索餌域での滞在時間を知るのに有用な情報が得られました。
C マッコウクジラは、これまでの調査で情報の少なかった沖合域(8、9海区)での標本の採集に努め、3個体を調査しました。その結果、これらの個体は、ヒロビレイカやクラゲイカなどの中深層性イカ類を主に捕食しており、マッコウクジラの食性に関する最新の情報が蓄積されました。
D JARPNU調査は、鯨類の捕獲調査に加えて、鯨類の餌環境調査も併せて実施しています。今年度は、計量魚探を装備した第二共新丸に加えて、海幸丸を新たに餌環境調査船として導入し、計量魚探とトロールによる餌環境調査を約2ヶ月にわたって実施しました。これらの調査結果も合わせてクジラと餌生物を総合的に解析することによって、クジラの摂餌生態と生態系での役割がさらに明らかになるものと期待しています。
E 本調査では、鯨体の捕獲調査のみならず、衛星標識やデータロガーの装着などの技術を用いた鯨類の生態に関する情報の収集も同様に行っています。今次調査中に、イワシクジラ2頭に対して衛星標識の装着を試み、その内1個体について同標識の装着に成功しました。その後の発信状況を確認中です。
F シロナガスクジラやナガスクジラなどの大型のヒゲクジラ類の自然標識撮影やバイオプシー採集を実施して、画像や組織標本の収集を行いました。
なお、今次調査では、資材の整理作業中に貨物用昇降機による人身事故が発生しました。亡くなられた赤城政典様のご冥福を心からお祈りするとともに、調査実施体制の見直しを図り、今後とも、安全性の向上に努めることと致します。