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鯨類の生物学的研究(2001年10月〜2002年9月)

南半球産ミンククジラ捕獲調査(JARPA)  
北西北太平洋産ミンククジラ捕獲調査(JARPN)及び第2期北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPNU)  
アセスメントのための目視調査航海  
その他の研究活動


北西北太平洋産ミンククジラ捕獲調査(JARPN)及び第2期北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPNU)関連の研究活動

第2期北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPNU)は、鯨類を頂点とする海洋生態系の総合調査として2000年から開始された。 この調査の目的は、@将来策定される予定の複数種一括管理のモデルに情報を提供すること、A環境汚染のモニタリング、及びB鯨類の系群構造の解明である。 これらの目的はJARPNUに先んじて実施されたJARPNに端を発している。
北西北太平洋産ミンククジラ捕獲調査(JARPN)は1994年より開始され、1999年までの6年間にミンククジラの系群構造、同種の摂餌生態、及び環境変動に関する情報が収集された。 2000年に開催されたJARPNレビュー会合では、これらの調査から得られたデータや調査結果が検討され、北西太平洋に分布するミンククジラは、太平洋側と日本海側にそれぞれ1つの系群が分布しているが、IWCの作業部会が提案したように、更にその中にいくつかの亜系群が存在するといった仮説は妥当でないことが明らかにされた。 しかしながら、太平洋の沖合では、異なる系群が来遊してくるといったW系群仮説については、その可能性は完全否定することはできず、3年に1回の割合で移動してくる可能性のあることが指摘され、未解決な部分のあることも同時に明らかとなった。
また、JARPNからミンククジラは、サンマやカタクチイワシ、スルメイカ、スケトウダラといった有用魚種を多量に捕食していることが明らかとなり、その消費量を明らかにする必要が生じた。 また、近年関心の高い有機塩素化合物や重金属などの海洋汚染の問題についても、その影響評価を行う必要のあることが示唆された。 このような課題を総合的に検討するために、2000年からJARPNUが実施されている。 2000年から2001年までの予備調査では、従来のミンククジラにニタリクジラ、マッコウクジラを捕獲対象に加え、また2002年から開始された本格調査では、予備調査の結果を踏まえて、資源量や生物体量の大きいイワシクジラを捕獲対象に加えて実施することになった。 更に沿岸域での漁業との競合を調査するために、従来の母船式調査船団による捕獲調査に加えて、小型捕鯨船による沿岸域捕獲調査を取り入れた調査計画に修正されている。 この本格的調査では、ミンククジラ150頭(うち、50頭は沿岸域調査で採集)、ニタリクジラ50頭、イワシクジラ50頭、マッコウクジラ10頭の採集が計画された。
第1回の本格調査は、当初6月からの調査が計画されたが、サミットの開催など公的行事が開催されたことなどから、7月から9月に実施した。この結果約1ヶ月調査期間が短縮されたために、採集した鯨体標本はミンククジラ100頭、ニタリクジラ50頭、イワシクジラ39頭及びマッコウクジラ5頭に終わったが、約26年振りのイワシクジラの捕獲により同種の生物学的な情報や食性に関する様々な情報などが得られており、そのデータ解析に関心が集まっている。
ここでは、本年に実施された第1回のJARPNU本格調査航海の結果を示し、更にこれまでのJARPN及びJARPNUから得られたデータや標本の解析状況についても併せて示した。

(b.1)野外調査

2002年JARPNUは、7月5日から9月18日の79日間にわたって北西北太平洋の7海区、8海区及び9海区を調査海域として実施した。 調査に使用した船舶は、調査母船日新丸、3隻の目視採集船(勇新丸、第一京丸、第二十五利丸)である。 この他、餌調査には独立行政法人水産総合研究センター遠洋水産研究所所属の俊鷹丸が計量魚探及びトロール調査船として餌生物調査に参加した。
本調査には、当研究所から藤瀬研究部長が調査団長、研究部生態系研究室の田村研究員が生物調査首席調査員、同鯨類生物研究室の坂東研究員が生物調査次席調査員として、また同生態系研究室の安永研究員及び小西研究員が母船での生物調査の担当として参加した。 この調査航海の詳細は、2002年JARPNUの航海報告書の一部として、2003年の第55回IWC/SCにおいて報告する予定である。 なお、JARPNUの沿岸域捕獲調査については、平成14年10月中旬まで調査継続していることから、ここでは9月末に終了した捕獲調査船団における調査の結果についてのみ示した。 最終報告は、IWCなどに提出予定の航海報告書や当研究所の鯨研通信などで報告する予定であるので、そちらを参照願いたい。

(b.1.1) 目視調査

3隻の目視採集船により計11,497.3マイルの探索を行い、ミンククジラ133群141頭、ニタリクジラ100群129頭、イワシクジラ117群207頭、及びマッコウクジラ259群556頭を始めとして合計1,059群5,451頭に及ぶ鯨類を発見した。 これらの発見鯨種及び発見群頭数を表3に示した。

表3 2002年JARPNUで3隻の目視採集船が発見した鯨種別発見群頭数(2002年7月1日から9月18日)

群数 頭数
ミンククジラ 133 141
ミンククジラらしい 9 9
シロナガスクジラ 28 37
ナガスクジラ 34 47
イワシクジラ 117 207
ニタリクジラ 100 129
ザトウクジラ 6 6
セミクジラ 1 1
マッコウクジラ 259 556
シャチ 26 226
ツチクジラ 10 53
アカボウクジラ 1 1
種不明オウギハクジラ属鯨類 24 56
種不明アカボウクジラ科鯨類 122 221
型不明イシイルカ 16 73
カマイルカ 6 2,200
セミイルカ 2 500
マイルカ 1 80
スジイルカ 5 235
マダライルカ 1 3
オキゴンドウ 1 50
ハナゴンドウ 15 180
種不明ゴンドウクジラ類 5 100
種不明大型鯨類 52 70
種不明イルカ類 15 196
種不明鯨類 70 74

(b.1.2)生物調査

2002年JARPNUでは、ミンククジラ100頭(雄85頭、雌15頭)、ニタリクジラ50頭(雄25頭、雌25頭)、イワシクジラ39頭(雄15頭、雌24頭)及びマッコウクジラ5頭(雄2頭、雌3頭)の合計194個体を採集した。 採集された鯨体は全て母船上に引き揚げ、生物調査を実施した。 採集した鯨体から収集した標本及びデータの一覧を表4、表5、表6及び表7に示した。
また、本年のJARPNUにおける鯨類の食性調査から、次のようなことが明らかになった。 ミンククジラは沖合で主に大型のサンマを捕食していたのに対して北海道沿岸域ではカタクチイワシやオキアミを捕食していた。 ニタリクジラについては7海区で5月から6月にオキアミ、7月から8月には体長5から7cmのカタクチイワシを捕食していることを明らかにしてきたが、今次調査で実施した沖合域(8及び9海区)での捕獲調査から、7月に体長2cmから3cmのオキアミを、8月には7海区と同じサイズのカタクチイワシを捕食していることが明らかとなった。 イワシクジラは、調査海域の北側でカイアシ類やオキアミ類などの動物プランクトンを中心に捕食し、南側や調査時期の後半の9月ではカタクチイワシを捕食するなど、海域や時期で餌生物が変化することが示唆された。 マッコウクジラは胃内容物に未消化のアカイカが確認され、表層生態系への関与が明らかとなった。
今次の生物調査では、これまでと同様に、寄生虫についても調査しているが、ミンククジラではペンネラやアニサキス及び鉤頭虫の寄生率が高く、一方、ニタリクジラ及びイワシクジラではフジツボの付着率が高い傾向を示した。 また、ミンククジラに寄生していた肝吸虫は8海区よりも7海区で寄生率が高く、ニタリクジラにおけるペンネラ及びアニサキスの寄生率は7海区よりも8海区で高い傾向を示した。 更にイワシクジラでは、餌由来の寄生虫の寄生率が餌生物の種ごとに異なっており、寄生種や寄生率は鯨種やその食性によって大きく変動していたことから、従来の食性研究の補完的な役割を果たすものと思われた。

表4 2002年JARPNUの生物調査で収集した記録と標本の概要(ミンククジラ)

調査項目 雄の頭数 雌の頭数 合計
体長計測と性別判定 85 15 100
プロポーションの計測 85 15 100
外部形態の観察と写真記録 85 15 100
ダイアトムフィルムの観察と採集 85 15 100
脂皮厚の計測(11部位) 85 15 100
脂皮厚の計測(14部位) 18 3 21
体重の測定 85 15 100
各臓器及び組織重量の測定 18 3 21
DNA分析用組織(表皮)の採集 85 15 100
アイソザイム分析用組織(筋・肝・心)の採集 85 15 100
重金属分析用組織(筋・肝・腎・脂皮)の採集 85 15 100
有機塩素分析用組織(筋・肝・腎・脂皮)の採集 85 15 100
脂肪酸分析用組織の採集 18 3 21
安定同位体比分析用組織(筋・肝・脂皮)の採集 85 15 100
化学分析用組織の採集(筋・肝・脂皮) 85 15 100
汎用分析用組織の採集 85 15 100
エネルギーフロー分析用組織(筋・肝・大腸内容物)の採集 18 3 21
DNA餌生物種判定用大腸内容物の採集 6 0 6
細菌検査用組織の採集 85 15 100
ヘムタンパク分析用組織(筋・全血)の採集 2 0  2
浸透圧調節機能研究用組織の採集 26 4 30
比較解剖学研究用心臓の採集 1 0 1
泌乳状態観察、乳腺の計測及び組織採集 - 15 15
子宮角の計測及び子宮内膜の採集 - 15 15
卵巣の採集 - 15 15
胎仔の外部形態の観察と写真記録 - 4 4
胎仔の性別判定(肉眼観察) - 4 4
胎仔の体長及び体重の計測 - 4 4
胎仔のプロポーションの計測 - 4 4
胎仔の採集 - 4 4
精巣・精巣上体の重量計測と組織採集 85 - 85
血清の採集 85 15 100
全血の採集 85 15 100
臍帯血(全血)の採集 - 1 1
胃内容物の略式記録 85 15 100
各胃内容物の容量及び重量測定 85 15 100
食性分析用胃内容物の採集 85 15 100
外部寄生虫の観察記録 85 15 100
外部寄生虫の採集 10 1 11
内部寄生虫の観察記録 85 15 100
年齢査定用耳垢栓の採集 85 15 100
年齢査定用鼓室骨の採集 85 15 100
年齢査定及び形態学用ヒゲ板の採集 85 15 100
安定同位体分析用組織(ヒゲ板)の採集 85 15 100
ヒゲ板の計測(長径・短径) 85 15 100
左右ヒゲ板列の計測 85 15 100
脊椎骨骨端板(第6胸椎・第3腰椎)の採集 85 15 100
脊椎骨の計数 85 15 100
肋骨の計数 85 15 100
脳重量の測定 17 3 20
頭骨の計測(最大長・最大幅) 84 15 99

表5 2002年JARPNUの生物調査で収集した記録と標本の概要(ニタリクジラ)

調査項目 雄の頭数 雌の頭数 合計
体長計測と性別判定 25 25 50
プロポーションの計測 25 25 50
外部形態の観察と写真記録 25 25 50
ダイアトムフィルムの観察と採集 25 25 50
脂皮厚の計測(11部位) 25 25 50
脂皮厚の計測(14部位) 8 5 13
体重の測定 25 25 50
各臓器及び組織重量の測定 8 5 13
DNA分析用組織(表皮)の採集 25 25 50
アイソザイム分析用組織(筋・肝・心)の採集 25 25 50
重金属分析用組織(筋・肝・腎・脂皮)の採集 25 25 50
有機塩素分析用組織(筋・肝・腎・脂皮)の採集 25 25 50
脂肪酸分析用組織の採集 8 5 13
安定同位体比分析用組織(筋・肝・脂皮)の採集 25 25 50
化学分析用組織の採集(筋・肝・脂皮) 25 25 50
汎用分析用組織の採集 25 25 50
エネルギーフロー分析用組織(筋・肝・大腸内容物)の採集 8 5 13
DNA餌生物種判定用大腸内容物の採集 2 3 5
細菌検査用組織の採集 25 25  50
ヘムタンパク分析用組織(筋・全血)の採集 1 1 2
浸透圧調節機能研究用組織の採集 12 9 21
泌乳状態観察、乳腺の計測及び組織採集 - 25 25
乳汁の採集 - 1 1
子宮角の計測及び子宮内膜の採集 - 25 25
子宮内精子の採集 - 25 25
卵巣の採集 - 25 25
胎仔の外部形態の観察と写真記録 - 10 10
胎仔の性別判定(肉眼観察) - 9 10※
胎仔の体長及び体重の計測 - 10 10
胎仔のプロポーションの計測 - 9 9
胎仔の採集 - 10 10
精巣・精巣上体の重量計測と組織採集 25 - 25
精巣・精巣上体のスメア標本の作製 25 - 25
尿中精子の採集 12 - 12
血清の採集 24 25 49
全血の採集 24 25 49
臍帯血(全血)の採集 - 6 6
胃内容物の略式記録 25 25 50
各胃内容物の容量及び重量測定 25 25 50
食性分析用胃内容物の採集 25 25 50
外部寄生虫の観察記録 25 25 50
外部寄生虫の採集 15 18 33
内部寄生虫の観察記録 25 25 50
年齢査定用耳垢栓の採集 25 25 50
年齢査定用鼓室骨の採集 25 25 50
年齢査定及び形態学用ヒゲ板の採集 25 25 50
安定同位体分析用組織(ヒゲ板)の採集 25 25 50
ヒゲ板の計測(長径・短径) 25 25 50
左右ヒゲ板列の計測 25 25 50
脊椎骨骨端板(第6胸椎・第3腰椎)の採集 25 25 50
脊椎骨の計数 25 25 50
肋骨の計数 25 25 50
脳重量の測定 8 5 13
頭骨の計測(最大長・最大幅) 24 25 49
全身骨格の採集 1 0 1

※:性別不明の微小胎児1個体を含む

表6 2002年JARPNUの生物調査で収集した記録と標本の概要(イワシクジラ)

調査項目 雄の頭数 雌の頭数 合計
体長計測と性別判定 15 24 39
プロポーションの計測 15 24 39
外部形態の観察と写真記録 15 24 39
ダイアトムフィルムの観察と採集 15 24 39
脂皮厚の計測(11部位) 15 24 39
脂皮厚の計測(14部位) 13 3 16
体重の測定 15 24 39
各臓器及び組織重量の測定 13 3 16
DNA分析用組織(表皮)の採集 15 24 39
アイソザイム分析用組織(筋・肝・心)の採集 15 24 39
重金属分析用組織(筋・肝・腎・脂皮)の採集 15 24 39
有機塩素分析用組織(筋・肝・腎・脂皮)の採集 15 24 39
脂肪酸分析用組織の採集 13 3 16
安定同位体比分析用組織(筋・肝・脂皮)の採集 15 24 39
化学分析用組織の採集(筋・肝・脂皮) 15 24 39
汎用分析用組織の採集 15 24 39
エネルギーフロー分析用組織(筋・肝・大腸内容物)の採集 3 13 16
DNA餌生物種判定用大腸内容物の採集 3 6 9
細菌検査用組織の採集 15 24  39
ヘムタンパク分析用組織(筋・全血)の採集 0 2 2
浸透圧調節機能研究用組織の採集 7 10 17
泌乳状態観察、乳腺の計測及び組織採集 - 24 24
子宮角の計測及び子宮内膜の採集 - 24 24
子宮内精子の採集 - 24 24
卵巣の採集 - 24 24
胎仔の外部形態の観察と写真記録 - 18 18
胎仔の性別判定(肉眼観察) - 18 18
胎仔の体長及び体重の計測 - 18 18
胎仔のプロポーションの計測 - 18 18
胎仔の採集 - 18 18
精巣・精巣上体の重量計測と組織採集 15 - 15
精巣・精巣上体のスメア標本の作製 15 - 15
尿中精子の採集 9 - 9
血清の採集 15 24 39
全血の採集 15 24 39
臍帯血(全血)の採集 - 17 17
胃内容物の略式記録 15 24 39
各胃内容物の容量及び重量測定 15 24 39
食性分析用胃内容物の採集 15 24 39
外部寄生虫の観察記録 15 24 39
外部寄生虫の採集 12 13 25
内部寄生虫の観察記録 15 24 39
年齢査定用耳垢栓の採集 15 24 39
年齢査定用鼓室骨の採集 15 24 39
年齢査定及び形態学用ヒゲ板の採集 15 24 39
安定同位体分析用組織(ヒゲ板)の採集 15 24 39
ヒゲ板の計測(長径・短径) 15 24 39
左右ヒゲ板列の計測 15 24 39
脊椎骨骨端板(第6胸椎・第3腰椎)の採集 15 24 39
脊椎骨の計数 15 24 39
肋骨の計数 15 24 39
脳重量の測定 12 3 15
頭骨の計測(最大長・最大幅) 15 24 39

表7 2002年JARPNUの生物調査で収集した記録と標本の概要(マッコウクジラ)

調査項目 雄の頭数 雌の頭数 合計
体長計測と性別判定 2 3 5
プロポーションの計測 2 3 5
外部形態の観察と写真記録 2 3 5
ダイアトムフィルムの観察と採集 2 3 5
脂皮厚の計測(11部位) 2 3 5
脂皮厚の計測(14部位) 0 2 2
体重の測定 2 3 5
各臓器及び組織重量の測定 0 2 2
DNA分析用組織(表皮)の採集 2 3 5
アイソザイム分析用組織(筋・肝・心)の採集 2 3 5
重金属分析用組織(筋・肝・腎・脂皮)の採集 2 3 5
有機塩素分析用組織(筋・肝・腎・脂皮)の採集 2 3 5
脂肪酸分析用組織の採集 0 2 2
安定同位体比分析用組織(筋・肝・脂皮)の採集 2 3 5
化学分析用組織の採集(筋・肝・脂皮) 2 3 5
汎用分析用組織の採集 2 3 5
エネルギーフロー分析用組織(筋・肝・大腸内容物)の採集 0 2 2
DNA餌生物種判定用大腸内容物の採集 2 3 5
細菌検査用組織の採集 2 3 5
ヘムタンパク分析用組織(筋・全血)の採集 0 2 2
浸透圧調節機能研究用組織の採集 2 3 5
泌乳状態観察、乳腺の計測及び組織採集 - 3 3
子宮角の計測及び子宮内膜の採集 - 3 3
子宮内精子の採集 - 3 3
卵巣の採集 - 3 3
精巣・精巣上体の重量計測と組織採集 2 - 2
精巣・精巣上体のスメア標本 2 - 2
尿中精子の採集 2 - 2
血清の採集 2 3 5
全血の採集 2 3 5
胃内容物の略式記録 2 3 5
各胃内容物の容量及び重量測定 2 3 5
食性分析用胃内容物の採集 2 3 5
外部寄生虫の観察記録 2 3 5
外部寄生虫の採集 1 3 4
内部寄生虫の観察記録 2 3 5
年齢査定用上顎歯の採集 2 3 5
脊椎骨骨端板(第6胸椎・第3腰椎)の採集 2 3 5
脊椎骨の計数 2 3 5
肋骨の計数 2 3 5
脳重量の測定 0 2 2
頭骨の計測(最大長・最大幅) 2 3 5

(b.1.3)鯨類環境調査(餌生物、海気象観測等) 俊鷹丸高次捕食者餌生物調査

JARPNUの目的には、鯨類などの高次捕食者などを含んだ複数種一括管理モデルの構築にあたって必要となる鯨類の餌への嗜好性を推定することがあるが、このためには、クジラのみならず、その餌生物の分布状況や現存量を把握する必要があり、鯨類の胃内容物の構成と海中の餌の現存量を同時に調べて比較することによって初めて嗜好性の推定が可能となってくる。
本年は、7月14日より8月12日まで、日新丸船団の鯨類捕獲調査に合わせて、捕獲調査の主要な対象種であるイワシクジラ、ニタリクジラ及びミンククジラの餌への嗜好性を推定するための鯨類餌調査を実施した。 調査には遠洋水産研究所所属の俊鷹丸を使用した。 鯨類が捕食する多様な餌生物に対応するため計量魚探に中層トロール網などの採集機器を組み合わせた調査を実施した。 計量魚探を用いて、予め設定された調査線上をほぼ10ノットで航走しながらデータを収集した。 表中層トロールを用いて、魚探反応魚種確認トロールを11回、昼間定点トロールを11回、夜間トロールを2回実施した。 また、プランクトンの種確認のため、アイザックキットネットを18回、ノルパックネットを13回実施した。 海洋環境の把握を目的に、CTD観測を25回実施した。 調査対象鯨種の主要餌生物である、カイアシ類、オキアミ類、カタクチイワシ、サンマ等の種に関して、現存量推定を行うための貴重なデータを収集した。

(b.1.4)その他の調査

(b.1.4.1) 海洋学的調査

2002年のJARPNUでは実施していないが、捕獲調査船団と独立して目視調査に従事していた第二共新丸がほぼ同一海域での観測を行った。

(b.1.4.2)自然標識記録(Photo-ID)

2002年のJARPNUでは、目視採集船では、シロナガスクジラ16頭、ザトウクジラ2頭の他、イワシクジラ3頭、ニタリクジラ4頭の自然標識記録を撮影した。 これら撮影された映像の確認の後に、有効な記録簿を作成する予定である。

(b.1.4.3)バイオプシー採取

2002年のJARPNUでは、目視採集船では、シロナガスクジラ1頭、イワシクジラ7頭、ニタリクジラ1頭及びミンククジラ1頭からバイオプシーを採取した。 この他、マッコウクジラもしくはマッコウクジラと思われる死骸を調査中に発見し、これらの死骸から体表組織の採取を行った。 これらの試料は遺伝学的な研究に使用される予定である。

(b.1.4.4)大型鯨類の索餌行動観察記録

2002年のJARPNUは、目視採集船ではニタリクジラ2頭の索餌行動に関係する行動観察記録として、写真撮影等を行った。
(b.1.4.5) 距離角度推定実験

距離角度推定実験は、予備実験の後、目視採集船では2002年9月18日に本実験を実施して目視データの精度管理に関する情報を収集した。

(b.1.4.6)餌生物及び競合生物採集調査

今年は実施する機会が得られなかった。

(b.1.4.7) マリンデブリス

2002年調査では、ミンククジラ、ニタリクジラ、イワシクジラ及びマッコウクジラの全鯨種の胃内容物から、人工物が観察された。 これらのうち、そのほとんどが樹脂製品で構成されており、漁業活動に関したゴム手袋などの漁具や空き缶などの生活活動に由来するごみが認められた。

(b.1.4.8) 副産物検査

2002年調査では、副産物(赤肉)中の水銀濃度をリアルタイムに判定するため、新たに加熱気化水銀分析計を導入し、母船上での同分析計の導入を検討した。 この結果、船上と陸上の専門機関(厚生労働大臣の指定機関)での分析値との間に高い相関のあることがわかり、船上の分析値を基準にしても十分評価可能との予備的な検討結果が得られた。 しかしながら、この点については全試料を陸上で分析を行い、分析値の一致性を確認するなどして、船上での分析値の信頼性について検討する予定である。

(b.2) 調査器材及び技術の開発と改良

(b.2.1) 俊鷹丸による鯨類餌生物の分布と現存量調査(村瀬弘人、川原重幸(遠水研)、内川和久(遠水研)、宮下和士(北大)、藤瀬良弘、木和田広司、松岡耕二、西脇茂利)

本年のJARPNU本格調査より、遠洋水産研究所所属の調査船、俊鷹丸を用いて、計量魚探及び中層トロールによる鯨類餌生物の分布と現存量調査を、遠洋水産研究所と当研究所が共同で開始した。 2002年は従来のミンククジラ、ニタリクジラ及びマッコウクジラに加え、新たに捕獲対象となったイワシクジラの摂餌生態解明を目的としている。 俊鷹丸備え付けの最新型計量魚探のEK60(シムラッド社、ノルウェー)を用いてデータの収集を行った。 データ解析には、昨年同様、データ収集・解析ソフトのエコービュー(ソナーデータ社、オーストラリア)を使用しデータ収集の効率化、並びに高度な解析を目指した。 中層トロールを用いて、定点トロールと種確認トロールを実施した。 また、プランクトン反応の種確認にはIKMTを使用した。 調査中CTDを実施し、海洋環境についての情報も収集した。

(b.2.2) 第三開洋丸による鯨類餌生物の分布と現存量調査(木和田広司、川原重幸(遠水研)、村瀬弘人、宮下和士(北大)、松岡耕二、西脇茂利)

今年は道東釧路沖を中心とする沿岸及びその沖合域において、ミンククジラの摂餌生態並びに餌生物の分布状態の解明を目的とし、同沿岸域におけるミンククジラ捕獲調査とあわせて、計量魚群探知機による餌生物現存量調査及びトロール漁法を用いた鯨類餌生物調査を第三開洋丸(日本海洋株式会社所属)で、鯨類目視調査を第二共新丸(共同船舶株式会社所属)で各々実施した。 このうち第三開洋丸においては、38kHz、120kHzの2つの周波数を用いた計量魚群探知機による餌生物データを収集した。 データの収集並びに解析にあたっては、昨年に引き続きソナーデータ社のエコービューを使用してデータ収集の効率化並びに解析の高度化を目指している。
また、第三開洋丸では計量魚探によるデータ収集と並行し、魚探で得られた反応の魚種確認のため、或いは魚探では分布情報を収集し難い表層域に生息する鯨類餌生物魚類の分布状況把握を目的としたトロール調査を実施した。 このうち魚種確認のための調査では、中層トロール網のほかプランクトン反応の確認を目的としてアイザックキット中層トロールネット(IKMT)を使用し、特定の反応が得られた層を曳網する調査を実施した。 また表層に分布する魚類の調査の為には、浮子(フロート)を使用した表層トロールを用い、中層トロールと合わせて事前に定めた定点での調査を実施した。
第二共新丸は、第三開洋丸と同一のコースラインで目視調査を実施して鯨類の分布状況を調査した他、海洋構造の解明を目的とした海洋観測を実施し、餌生物調査に対して環境面からの情報を提供する事で貢献している。 過去2年間に蓄積された餌生物調査の情報と本年の情報から、新たに明らかになりつつある事象も多く存在する。 また、魚探では捉えきれない表層に生息する鯨類の主要餌生物(サンマ)の分布生態解明など、主として調査方法に関する問題点も次第に明らかになってきている。 今後も引き続き調査精度の向上に努めつつ、効率的な餌生物調査の手法などについてもより一層の検討を加え、鯨類並びにその餌生物の生態に関する新たな知見を得ることを目指している。

(b.2.3) 捕殺技術の改良(石川 創、重宗弘久(共同船舶))

JARPNUで捕獲対象となっているマッコウクジラの捕殺技術を向上し致死時間を短縮するために爆発銛の導爆線増量、遅延信管の採用等を行った。 またニタリクジラ、イワシクジラの致死時間を短縮するために、従来のライフルを上回る大口径ライフルを2次的捕殺手段として導入した。 ミンククジラに対してはJARPA同様にノルウェー製新型グレネードを試験的に採用した。

(b.2.4) 調査母船日新丸の体重計換装

2000年にJARPNU予備調査が開始され、これにより大型のニタリクジラやマッコウクジラが捕獲の対象に加わったため、日新丸甲板に設置されていた鯨体重量計を従来の15t計から30t計に換装した。 本年から開始された本格的調査では更に大型のイワシクジラが加わったことから、換装後の体重計で計測が難しいのではないかとの懸念もあったが、イワシクジラの約半数がこれを上回るものとなり、今後の課題となった。

(b.3) 実験の技術・手法の開発

(b.3.1) 遺伝学

JARPAと同様(セクションa.3.1参照)(http://www.icrwhale.org/03-B.htm)

(b.3.2) 環境化学

近年鯨肉に含まれる有機塩素化合物や重金属類などに関心が高まり、これまでの重金属などの蓄積、動態研究のみならず、食品衛生面からの要求も求められていることから、所内にセミクリーンな実験環境を整えて、当研究所でもある程度の環境汚染物質の分析が可能となるように設備の充実を図っている。 これまでに、水銀などの元素の一部についてはすでに、環境整備を終え、分析を開始したが、その他の汚染物質についても、必要に応じて拡充できるように周辺環境の整備を行っている。

(b.4) 研究の進展

(b.4.1) ミンククジラの摂餌生態

JARPNにおけるミンククジラの食性は、ミンククジラと餌生物の相互影響の視点から調査されている。 そして、ミンククジラの胃内容物は定性的及び定量的な検討を行っている。

(b.4.1.1) 大型鯨類の食性調査(田村 力、小西健志、藤瀬良弘)

JARPNUにおけるミンククジラ、ニタリクジラ及びマッコウクジラの食性は、鯨類と餌生物の相互影響及び漁業との競合の視点から調査されている。 本年より新たにイワシクジラが解析対象として加わった。 各種鯨類の胃内容物は、定性的及び定量的な検討を行っている。 解析が完了次第、過去のデータと比較する予定である。

(b.4.1.2) 北太平洋におけるマッコウクジラの食性についての研究(窪寺恒巳(国立科博)、一井太郎、大泉 宏、渡邊 光(遠水研)、藤瀬良弘、田村 力)

北太平洋におけるマッコウクジラの食性を明らかにすることを目的として、2000年及び2001年JARPNUで採集したマッコウクジラの胃内容物の解析を行った。 その結果、マッコウクジラが、多種の中深層性イカ類を利用していることが明らかとなった。 またイカ類だけでなく少量ながら中深層性魚類も利用していることが確認された。 現在、更に解析を進めている。

(b.4.1.3) 北西太平洋における鯨類の栄養化学的研究(伊藤真吾(日大)、藤瀬良弘、田村 力)

北太平洋における鯨類の脂肪酸組成を明らかにして生態系の中で果たしている役割を栄養化学的に解明することを目的として、JARPN及びJARPNUで採集したミンククジラ、ニタリクジラ及びマッコウクジラの筋肉・脂皮・肝臓及び餌生物の脂肪酸分析を開始した。

(b.4.2) 系群構造

系群構造の研究は、先のJARPNでの主目的として実施してきた研究課題であり、多くの課題が検討されている。

(b.4.2.1) JARPNUで採集されたミンククジラのミトコンドリアDNA(mtDNA)とマイクロサテライトDNAによる系群構造(後藤睦夫、上田真久、ルイス・パステネ)

2001年に行われたJARPNUで採集されたミンククジラ100個体(7海区:50個体、8、9海区:50個体)のmtDNA制御領域の塩基配列(前半部分486bp)解析とマイクロサテライトDNA(7遺伝子座)解析を行い、系群構造の解析を行った。 この解析では比較のために、1994年から2000年にかけて行われたJARPN及びJARPNUで採集された個体の遺伝情報も用いた。 mtDNA解析では、JARPNUで採集された個体のうち、9海区からの標本群に遺伝的異質性が観察された。 一方、マイクロサテライトDNA解析ではこのような異質性は確認されなかった。 この結果は、1995年、2000年のJARPN及びJARPNUで採集された9海区西側に分布するグループに見られた現象と同様であった。 この結果の解釈として、O系群の中に更に別な系群が存在する、あるいはmtDNAによる異質性はサンプリングバイアスによる影響であるとの仮説が考えられた。 しかしながら、2000年同様、2001年の9海区で採集された標本数は必ずしも十分ではなく、最終的な結論を出すためには更なる解析が必要であると考えられる(SC/54/O 17、Appendix 9参照)。

(b.4.2.2) AICを用いた北ミンクISTにおける異なる系群シナリオの妥当性の検討(後藤睦夫、上田真久、ルイス・パステネ)

赤池情報基準(AIC)を用いて、2001年1月にシアトルで行われた北ミンクIST作業部会で設定された4種類の系群シナリオの妥当性を検討した。 7、8、9海区の個体が持つハプロタイプの内、最も頻度の高い5種類のハプロタイプをAICの独立したパラメーターとして用い、それぞれの基本シナリオに加えて、いくつかのバリアントについても検討した。 その結果、どのハプロタイプの組み合わせを用いても、我々が主張するシナリオA(太平洋にはJ系群とO系群のみが存在するが、時折9海区の一部分に異なる組成を持つクループが出現する)が選択された(SC/54/RMP15参照)。

(b.4.2.3) 日本海で採集された新たな標本を用いたJ系群の構造解析(後藤睦夫、キム・ザングン(韓国国立水産振興院)、ルイス・パステネ)

近年、日韓学術交流に基づき混獲標本の採集努力が続けられており、韓国で混獲した標本のmtDNA分析が可能になり、同時に日本でも混獲標本の採集努力が進められている。 現在進められている日韓共同研究に基づく更なる混獲標本の解析が、日本海における系群構造に関する理解を深める手助けになると考えられる。

(b.4.2.4) mtDNAデータを用いたベイズと経験ベイズ法による北西太平洋ミンククジラの系群構造(グロング・クイ(オーストラリア・CSIRO)、アンドレ・プント(アメリカ・ワシントン大学)、ルイス・パステネ、後藤睦夫)

ベイジアン法にmtDNAデータを適応し、北西太平洋ミンククジラの系群構造の検討を行った。 この方法を応用した結果、これまでアロザイムやmtDNA分析による仮説検定の結果と同様の結果が得られた。 なお、この研究結果はJournal of Cetacean Research and Management 4(2)に発表された。

(b.4.2.5) ニタリクジラの系群構造(ルイス・パステネ、後藤睦夫、上田真久、加藤秀弘(遠水研)

ニタリクジラの系群構造を調べるために、2001年JARPNUで採集された50個体のmtDNA制御領域の塩基配列解析及びマイクロサテライトDNA解析を行い、2000年、2001年のJARPNUデータを過去の商業捕鯨や他海域(南太平洋、インド洋)で捕獲された個体から得られたデータと比較した。 その結果、同じ海域内で得られたサンプル間では遺伝的異質性は見られなかったが、異なる海域からの標本間では明らかな遺伝的差異が確認された。 この結果から、少なくとも、異なる海域には遺伝的に異なった系群が存在していることが明らかになった。 これらの結果は、IWC/SCの仮定する系群シナリオを支持している(SC/54/O17、Appendix 10参照)。

(b.4.2.6) マッコウクジラの系群構造(上田真久、後藤睦夫、ルイス・パステネ)

2000年と2001年のJARPNUで採集された13個体とバイオプシー標本18個体を用いてmtDNA制御領域の塩基配列と8種類のマイクロサテライトDNA遺伝子座の解析を行った。 標本数が少ないことから、系群構造の予備的解析としてマッコウクジラの遺伝的変異性の程度を把握することとし、JARPN及びJARPNUで採集したミンククジラとニタリクジラと比較した。 その結果、これら鯨種は同程度の遺伝的変異性を示した(SC/54/O17、Appendix 11参照)。 これらのデータをもとに今後、過去の商業捕鯨時代の標本との比較検討を行う予定である。

(b.4.2.7) 北西北太平洋ミンククジラの系群構造解明のための生物学的特性値の検討(銭谷亮子、藤瀬良弘、加藤秀弘(遠水研)、坂東武治)

JARPNで採集されたミンククジラのmtDNA分析の結果から9海区西側にある程度の異質性があることが示され、更にJARPNUで採集された9海区西側の標本からも遺伝分析では異なる集団の存在する可能性が示唆されている。 この異質性について、受胎時期、成長曲線、肉体的成熟体長(15歳以上の平均体長)、性状態組成、及びミンククジラの体表に残るダルマザメの噛み痕から検討した。 JARPN及びJARPNUで採集された雄500個体、雌58個体、計558個体の標本を用いて、異質性の認められた9海区は東経162度で9海区西側と9海区東側の東西に分け、海区間の比較や各海区における年度間の比較を行った。 胎児体長と採集日の関係からはJARPNUで採集された胎児もO系群と同じ受胎時期を示したこと、また、成長曲線や15歳以上の平均体長には海区の間、各海区における年度の間には差が認められなかったこと、更にJARPNUで採集された成熟個体の体表にはダルマザメの噛み痕(白斑痕)が残っておりO系群と考えられたことから、JARPNの結果と同様に、遺伝学的に9海区西側に見られた異質性については生物学的特性値からは検証することはできず、他の系群が存在する可能性は示唆されなかった。 また、JARPNUで採集されたミンククジラも成熟雄が卓越し、未成熟個体や成熟雌が少なく、偏った組成をしており、また、未成熟個体は少ないが、JARPNに比べるとその割合が8及び9海区よりも7海区において高く、未成熟雄個体は沖合域よりも沿岸域に分布していることが明らかとなった。 これらの結果からその海区に分布するミンククジラだけではひとつの独立した生物集団を形成していない事が示唆された。(SC/54/O17、Appendix 12参照)。

(b.4.2.8) ミンククジラの安定同位体比分析(坂東武治)

ミンククジラの索餌回遊の時期と経路を明らかにし、更にその系群構造を解明するため、ミンククジラのヒゲ板、筋肉及び肝臓の炭素及び窒素の安定同位体比の分析が引き続き検討されている。

(b.4.2.9) ミンククジラの骨学的研究(藤瀬良弘、銭谷亮子、坂東武治)

北西北太平洋のミンククジラの系群構造を骨学的な側面から検討するため、各海区において採集した骨格の計測を行って、データの蓄積を行っている。

(b.4.3) 環境汚染のモニタリング

環境汚染のモニタリングは、これまでJARPNUの予備調査においても第3の目的として、主に環境変動の一因子として勧められてきたが、本年から開始されたJARPNUの本格調査では、第2の主目的として、また環境汚染に着目した研究課題として取り上げられ、今後、多方面からの研究を勧めていく予定である。

(b.4.3.1) ミンククジラにおける重金属蓄積(藤瀬良弘、安永玄太、本田克久(三浦環科研)、青木昌広(三浦環科研))

1994年から1999年のJARPNで採集した肝臓中のFe、Hg、Cd及び脂皮中のPCBs、DDTs、CHLs、HCHs、HCBの蓄積レベルに基づく環境学的トレーサーを用いて、西部北太平洋のミンククジラの系群構造を同定することを試みている。 11海区のミンククジラの中にはDDTs(特にp,pユ−DDT)及びPCBsの濃度レベルは高い個体がいた。 同時に、これらのクジラの水銀濃度レベルは比較的低い値を示した。 これらの結果は、それらの検体がJ系群に属している可能性を支持している。 11海区のその他のミンククジラからは、逆のパターンが観察された。 これは、これらのクジラがO系群である可能性を示している。 これらの結論は、遺伝学及び表皮の傷跡の結果と一致した。 これら化学物質の蓄積量を主成分分析及び判別分析することにより、J系群とO系群が区別できる可能性が明らかになった(SC/F2K/J18参照)。

(b.4.3.2) バイオプシー標本の環境化学的研究への適用実験(安永玄太、藤瀬良弘、田辺信介(愛媛大))

ミンククジラの皮膚と内臓組織(肝臓、筋肉、腎臓)中の微量元素(マンガン、銅、亜鉛、セレン、カドミウム、メチル水銀、総水銀、及び鉛)濃度の関係について検討した。 試料は1995年及び1999年に捕獲された15検体を用いた。 解析には、Stepwize回帰分析法を用い、交絡要因(体長、性、捕獲年)の影響についても検討した。 いくつかの内臓の毒性元素濃度については、皮膚中の濃度と有意な相関関係が認められたが、必須元素については、そのような関係は認められなかった。 肝臓及び筋肉中のカドミウム濃度と腎臓中の総水銀濃度については、皮膚中の各元素濃度を求める線形回帰式を得た。 従って、いくつかの元素については、北西太平洋ミンククジラの内臓組織中の毒性元素濃度を推定することの可能であることが示された。 しかしながら、これらの結果は、南極海におけるクロミンククジラの結果と一致しない点もあり、現在更に詳細な検討を行なっている(SC/54/O17 Appendix 15参照)。

(b.4.3.3) ミンククジラにおける有機塩素化合物の蓄積(中田晴彦(熊本大)、田辺信介(愛媛大)、藤瀬良弘)

1996年から1999年に捕獲した西部北太平洋のミンククジラ76検体について、愛媛大学と共同研究としてPCBs及び有機塩素系農薬の分析を行った。 データは、主成分分析を用いて検討した。 1996年オホーツク海で捕獲した4個体はDDTs及びHCHsの濃度が高かった。 これらはJ系群に属しており、オホーツク海南部のO系群と混合していると結論された(SC/F2K/J17参照)。

(b.4.3.4) 大気及び海水中における有機塩素化合物濃度のモニタリング(田辺信介(愛媛大)、安永玄太、藤瀬良弘)

2001年の調査で採集した西部北西太平洋海域の大気試料4点及び表面海水試料3点の有機塩素化合物(PCBs、DDTs、HCHs、HCB及びCHLs)濃度を測定した。 この年度の結果からは、PCBs及びHCHsを除いたいずれの有機塩素化合物も、大気及び海水共に海域間の差は認められなかった。 4地点の大気試料のPCBs、DDTs及びHCHsのレベルは、同海域の1989/1990年における各化合物の報告値より低かった。 また、3地点の海水試料のPCBs、DDTs及びCHLsのレベルは、同海域の1989/1990年における各化合物の報告値より低かった(SC/54/O17 Appendix 14参照)。 今後、継続的にモニタリングしていく予定である。

(b.4.4) 資源解析

(b.4.4.1) 捕獲の鯨類資源への影響の検討(袴田高志)

北西太平洋ミンククジラ、ニタリクジラ、イワシクジラ資源へのJARPNUにおける捕獲の影響についてHITTERプログラムで調べた。 ミンククジラについては年間150頭(7海区:90頭、8海区:30頭、9海区:30頭)を2002年から30年間捕獲すると仮定し、2つの系統群があるシナリオを考えた。 資源量推定値、過去の捕獲頭数、生物学的特性値は、同種のRMPのシュミレーショントライアルと同じ値を用いた。 ニタリクジラについては毎年50頭を30年間捕獲するという仮定で計算し、計算に必要なデータは同種の包括的評価で用いられたものを仮定した。 イワシクジラについては、毎年50頭を30年間捕獲し、経度180度線で2つの系統群に分かれると仮定して計算した。 その結果、いずれの鯨種も、捕獲による資源への影響は無視できることが示された。

(b.4.5) その他の研究

(b.4.5.1) 計量魚探による鯨類餌生物現存量推定法に関する研究(村瀬弘人、木和田広司、宮下和士(北大)、川原重幸(遠水研)、松岡耕二、西脇茂利)

鯨類の餌生物は多岐にわたるため、それぞれの種毎にその現存量推定方法を検討する必要がある。 現在、計量魚探による鯨類餌生物現存量推定の精度をより高めるために、JARPNUで収集した計量魚探データ及びトロール漁獲データを用いて、推定方法の検討を行っている。 主な対象種は、サンマ、カタクチイワシ、カイアシ類、オキアミ類である。

(b.4.5.2) 鯨類の餌生物嗜好性に関する研究(村瀬弘人、田村 力、木和田広司、藤瀬良弘、渡邊光(遠水研)、大泉 宏(遠水研)、川原重幸(遠水研))

2000年及び2001年JARPNU予備調査で収集した計量魚探データ及び鯨類胃内容物データを用いてミンククジラとニタリクジラの餌生物嗜好性に関する予備解析を行った。 この結果、ミンククジラは表層に分布するカタクチイワシのような群になる浮魚類に嗜好性を持っている可能性があること、またニタリクジラは季節的に餌生物を変えている可能性が示唆された。 この結果より、予備調査で行った鯨類餌生物嗜好性調査方法は、現実的に可能であることが示唆された。 これらの結果は、SC/54/O17のAppendix 5としてIWCに提出した。 また、フランス、モンペリエにおいて2002年6月10日より14日までの5日間、開催された、第6回ICES水産音響シンポジウム(The 6th ICES Symposium on Acoustics in Fisheries and Aquatic Ecology)においてもポスター発表を行った。 結果を論文に取りまとめ、現在、Aquatic living resourcesに投稿し、審査中となっている。

(b.4.5.3) 北西太平洋におけるイワシクジラ資源量推定に関する研究(松岡耕二、袴田高志、西脇茂利、宮下富夫(遠水研))

近年の北西太平洋におけるイワシクジラ資源量推定を目的として、同種が広く分布すると考えられる6、7月を広範囲に調査した1997年JARPN、2001年JARPNUの2年分のデータを用いて「DISTANCE」による解析を行った。 更にJARPNやJARPNUで調査対象となっていないロシア200海里内の資源量については、本結果を基に、1970から80年代のJSV(日本の探鯨船)データによって重みつけして推定した。 北西太平洋(北緯35度以北、日本沿岸から経度180度まで、ただし日本海、オホーツク海、ベーリング海を除く)におけるイワシクジラ資源量は28,400頭(CV=0.405)と推定された。

(b.4.5.4) ミンククジラの性状態による棲み分け(銭谷亮子、藤瀬良弘、坂東武治、加藤秀弘(遠水研))

JARPNでは、7、8及び9海区に分布するミンククジラは成熟雄が卓越し、成熟雌や未成熟個体が少ないという偏った組成を示すことが明らかになり、それぞれの海区に一つの独立した集団が分布していることを示唆する結果は得られていない。 JARPNUで得られたデータを追加し、特に若い個体(未成熟)の分布についてミンククジラの発見位置、体長組成、及び性状態組成から再度検討した。 JARPNでは標本の得られていない7海区の三陸沖沿岸域(7海区南側)と北緯41度以北の7海区北側については、1977年から1987年までの沿岸小型捕鯨で収集された2,692頭(雄:1,817頭、雌:875頭)の生物学的データを用いて検討した。 ミンククジラの性状態別の発見位置は、全ての海区に成熟雄が卓越し、未成熟雄個体の分布は他の海区に比べ、沿岸の7海区で多い傾向を示した。 体長組成及び性状態組成は、全ての海域において成熟雄が卓越し、未成熟個体と成熟雌が少ないことを示した。 商業捕鯨時代の体長組成及び性状態組成は未成熟個体が卓越し、特に4月、5月に顕著であることを示した。 JARPN及びJARPNUのデータでは、7、8及び9海区のミンククジラが成熟雄のみが卓越し、未成熟個体が少ないという性や性状態による偏った組成を示しており、8海区、9海区に比べると、未成熟個体が認められた7海区は過去の小型沿岸捕鯨によって多くの未成熟個体が採集された海域であった。 従って、大部分の未成熟個体は特に4月、5月には沿岸域の7海区に分布していると考えるのが妥当である(SC/JO2/NP12参照)。 更に7海区、8海区及び9海区における未成熟個体の分布について、北ミンクISTのワークショップにおいて、JARPN及びJARPNUで採集されたミンククジラの未成熟個体の割合が海区間で異なるかどうかを統計的に検定するよう勧告が出された。 そこで、JARPN及びJARPNUで採集されたミンククジラの未成熟雄、未成熟雌、成熟雄及び成熟雌の割合(性状態組成)が海区間で違うかどうかをAIC(赤池の情報量基準)を用いて検討した。 AICの結果、7海区東側、8海区及び9海区の性状態組成は類似しているが、7海区西側の性状態組成は7海区東側、8海区及び9海区とは異なることが示唆され、7海区西側は未成熟雄の割合が高く、成熟雄の割合が少ないという組成の違いが認められた。 この7海区西側は、過去の沿岸小型捕鯨 において未成熟個体が卓越していた海域と同じであり、従って、一つのストックが沿岸域の7海区西側に未成熟個体が、7海区東側から9海区の外洋域には成熟雄が棲み分け分布していると結論するのが妥当であり、これは他の海域で見られるミンククジラの性や性状態による棲み分けと整合している。(SC/54/RMPWP5参照)。

(b.4.5.5) ミンククジラの脊椎骨の椎体と骨端盤癒合部の化骨パターンの検証(鈴木美沙(日大)、銭谷亮子、藤瀬良弘、坂東武治)

クロミンククジラの肉体的成熟に関する研究は脊椎骨の椎体と骨端盤の間の軟骨組織を肉眼で観察することにより行われており、脊椎骨の化骨は胸椎の中央部あるいは後部で完了するとされている。 そこで、1994年JARPNにおいて、3個体から採集した全脊椎骨切片と7個体から採集した12箇所の脊椎骨切片を用いて、椎体と骨端盤の間の軟骨組織を染色した後、化骨状態の観察を行い、脊椎骨の化骨の終点がどの部位であるかの検証を行っている。

(b.4.5.6) 鯨類における感染症のモニタリングシステムの構築(大石和恵(東大海洋研)、宮崎信之(東大海洋研)、丸山 正(海洋バイオテクノロジー研究所)、藤瀬良弘、銭谷亮子、坂東武治)

「鯨類における感染症のモニタリングシステムの構築」の一環として、2000年JARPNUで採集されたミンククジラ40個体、ニタリクジラ43個体及びマッコウクジラ5個体の血清、及び2000/2001年JARPAで採集されたクロミンククジラ110個体の血清を用いて、牛ブルセラ菌(Brucella abortus)抗原との凝集反応によりブルセラ菌の鯨類への感染について検討した。 その結果、15個体のミンククジラと4個体のニタリクジラの血清からブルセラ菌に対する抗体が検出されたが、4個体のマッコウクジラ及び110個体のクロミンククジラの血清中にはブルセラに対する抗体は検出されなかった。 また、13個体のミンククジラ成熟雄の精巣、ニタリクジラの成熟雄1個体の精巣と成熟雌1個体の卵巣に異常が観察された。 以上の結果より、北太平洋に生息する2種類のヒゲクジラにおいてブルセラ菌による感染の可能性が示唆された。 このブルセラ菌のクジラ、ヒトにおける病原性については不明である。 これまでの陸上動物由来のほとんどのブルセラ菌が人畜共通感染症を引き起こすことから、学術調査にかかわった乗務員(32名)、研究者(15名)について感染の有無を血清学的に調べたが、すべて陰性であり、ブルセラ菌の人への感染は認められなかった。

(b.4.6) JARPNUの目的及び今後の検討事項に対する調査結果の貢献

先のJARPNにより鯨類がサンマやカタクチイワシ、スケトウダラなどの有用魚種を多量に消費していることが明らかとなり、海棲哺乳類と漁業の競合関係について関心が高まってきたことから、JARPNUでは鯨類の摂餌生態と生態系の調査を最優先として取り組むことにし、鯨類による餌生物消費量及び餌生物の嗜好性に関する調査を行って、将来策定される生態系モデルへの情報提供を目的とした調査研究が立案された。 この調査では更に環境汚染物質のモニタリングや、JARPNからの継続研究でもある鯨類の系群構造、特にミンククジラの系群構造についても更にデータを収集することになった。
2000年から2001年の2ヵ年に実施されたJARPNUの予備調査は成功裡に終わり、以下にあげるように、多くの有用な結果が得られた。 1)ミンククジラの餌生物組成はきわめて多彩で柔軟。 ミンククジラの摂餌の商業漁業に対する影響と範囲を評価するには、量的・質的データの蓄積が必要である。 2)ニタリクジラは南の沖合に存在し、おもにオキアミとカタクチイワシを食している。 分布範囲はミンククジラとほぼ重なり、ミンククジラと比べてみると、大きさの異なるカタクチイワシを食している。 3)マッコウクジラは調査海域全般に数多く存在し、おもに深海性のイカ類を食している。 深海性イカ類の生態についてはごく限られたことしか分かっていないが、マッコウクジラは遠洋生態系に重大な影響を及ぼしている可能性がある。 4)初回の鯨類と餌生物の並行調査は、大きな実行上の問題もなく実施された。 予備分析によると、ミンククジラとニタリクジラはハダカイワシを好まず、ニタリクジラは小型のカタクチイワシの中では大きいものを好むことが分かっている。
これら2ヵ年の予備調査の結果を総合的に検討して、本年に本格調査が策定され、7月から実施された。 この本格調査における調査方式は、基本的には予備調査を踏襲したものであるが、餌生物として重要なサンマ資源の分布が沖合まで広がっていることが判明したため、調査海域を従来の7海区から、7、8及び9海区に拡大したこと、生態系の主要構成員としてイワシクジラが無視できないことが明らかとなったため、調査対象に加えたこと、そして、鯨類と漁業との競合が激しいと予想される春と秋の時期の沿岸域をカバーするために小型捕鯨船によるミンククジラ捕獲調査を追加したことである。 また、これらの拡大により、目標標本数もミンククジラ150頭(内、50頭は沿岸域調査)、ニタリクジラ50頭、イワシクジラ50頭、及びマッコウクジラ10頭である。 この計画のもとで、本年7月から沖合域での捕獲調査が、また9月から道東を中心とする沿岸域での捕獲調査が実施された。

(b.5) その他の研究の進展

(b.5.1) mtDNAデータを用いた市場調査におけるJとO系群の混合率と混獲数の推定(ルイス・パステネ、上田真久、後藤睦夫)

近年、IWCではmtDNAによる市場調査の結果を基に、日本と韓国市場における北太平洋ミンククジラのJ系群とO系群の割合および混獲数の推定が行われている。 しかしながら、遺伝的手法を用いた推定法の有効性と精度は1)市場における標本採集のランダム性、2)J系群およびO系群個体由来製品の分布の地理的変異、3)鯨製品の地域ごとの流通量および4)J系群とO系群の混合率を推定する際にJ系群のベースデータに代表性があるかどうかを十分に考慮する必要がある(SC/53/RMP13参照)。 現在、継続した市場調査とJ系群のベースデータの構築の努力を行っている。

(b.5.2) SINEを用いた鯨類の系統解析(二階堂雅人、牧野 瞳、岡田典弘(東工大)、後藤睦夫、ルイス・パステネ、上田真久)

東京工業大学との共同研究として、核DNA中に存在するSINE領域を用いて鯨類の系統分析を行っている。 また、この結果に基づき、市場調査で得られた鯨肉製品や座礁個体の種判別が効率よく行えるようにSINE解析の条件設定中である。

(b.5.3) 鯨類のMHC領域における多型解析に関する研究(林 耕介、西田 伸、小池裕子(九州大)、吉田英可(遠水研)、後藤睦夫、ルイス・パステネ)

九州大学との共同研究として、脊椎動物の免疫反応に深く関与する蛋白質であるMHC(Major Histocompatibility complex: 主要組織適合遺伝子複合体)遺伝子内のDQB領域について、1)鯨類試料を用いた分析法の検討方法論の設定、2)クジラ目におけるDQB遺伝子の構造解析、及び3)日本沿岸の鯨類における多型解析を目的とした研究を進めている。

(b.5.4) 核DNAの多型領域、特にY染色体等のDNA分析によるミンククジラの遺伝的構造に関する研究(西田 伸、小池裕子(九州大)、後藤睦夫、ルイス・パステネ、上田真久)

九州大学との共同研究として、クジラ目20種を用いて、性決定に関与する遺伝子であり父系単系統で遺伝するY染色SRY遺伝子領域における、1)SRY遺伝子の構造決定、2)系統関係の推定、および3)ミンククジラ類における種内多型の検出を目的とした研究を進めている。 種内多型解析では本年新たに2000bpの領域において探索を行い、クロミンククジラにおいて3タイプの置換が検出され、新しい父系遺伝的マーカーとしての有効性が示された。

(b.5.5) 北西太平洋ニタリクジラ、マッコウクジラおよびミンククジラの精液性状と精子凍結保存に関する研究(福井 豊(帯畜大)、宮本明夫(帯畜大)、手塚雅文(帯畜大)、佐々木基樹(帯畜大)、浅田正嗣(帯畜大)茂越敏弘、石川 創)

ニタリクジラ、マッコウクジラの精液性状および精子の凍結保存に関しては、これまで報告が見られない。 そこでミンククジラ精子の凍結保存を対照として両種の雄の精子形態の研究と、精液の凍結保存を目指す。

(b.5.6) ミンククジラの十二指腸腺に関する形態学的研究(高木美好(酪農大)、竹花一成(酪農大)、石川 創)

十二指腸腺は哺乳類特有の小腸前部に存在する外分泌腺である。 海産哺乳類の十二指腸腺の形態及び分泌物の性状について明らかにするため、ミンククジラ、ゴマフアザラシ及びゼニガタアザラシの十二指腸腺の形態及び分泌物の性状を明らかにした。 光学顕微鏡による組織観察で、ミンククジラは幽門部より後方3mm、ゴマフアザラシでは100mm、ゼニガタアザラシでは40mmの範囲において十二指腸腺が存在していた。 十二指腸腺の小腸全体に対する分布率は、ミンククジラでは0.45%、ゴマフアザラシでは0.50%、ゼニガタアザラシでは0.24%となった。 これらの結果は、「十二指腸腺の分布範囲は、肉食獣は草食獣より短く、雑食獣は肉食獣と草食獣の中間を示す」というCookeの食性説に準ずる結果となった。 また、光学顕微鏡による組織化学的観察により、3種すべての動物の十二指腸腺の終末部は単一の粘液細胞によって構成されていることが明らかになった。 また光学顕微鏡および透過型電子顕微鏡による腺細胞観察で、腺細胞はそれぞれ立方、円柱もしくはピラミッド状を呈し、円形もしくは楕円形の核を基底側に備えていることが明らかとなった。

(b.5.7) 北西太平洋産ヒゲクジラ類の血清中性ホルモン(T、E2、FSH、LH)濃度と精細管内組織像の関連性(渡部浩之(帯畜大)、浅田正嗣(帯畜大)、林 憲悟(帯畜大)、宮本明夫(帯畜大)福井 豊(帯畜大)、宮本明夫(帯畜大)、手塚雅文(帯畜大)、佐々木基樹(帯畜大)、茂越敏弘、石川 創、藤瀬良弘、大隅清治)

本研究は、索餌期におけるミンククジラおよびニタリクジラの血清中性ホルモン濃度と精細管内組織像の関連性を検討した。 平成13年5から8月に実施されたJARPNUで捕獲された雄ミンククジラ39頭および雄ニタリクジラ14頭の血清中性ホルモン(T、E2、FSH、LH)濃度をEIA法で測定した。 クジラの性成熟は精巣重量で判定した。 また、ホルモン測定した個体中ミンククジラ15頭とニタリクジラ7頭の精巣組織切片(4μm)を作製した。 一視野中(x100)の精細管数、精細管直径、精細管内精子の有無を観察し、その数を算出した。 T濃度は35.9%のミンククジラと57.1%のニタリクジラで測定限界以下であった(<0.0025ng/ml)。 各種ホルモン濃度は成熟および未成熟クジラ間で差は見られなかった。 しかし、成熟ニタリクジラの精細管数は未成熟ミンククジラより多く(P<0.05)、成熟ニタリクジラの精細管直径は成熟ミンククジラより大きかった(P<0.05)。 成熟ミンククジラ2/13頭と成熟ニタリクジラ4/4頭で精細管内に少数の精子が観察された。 また、T濃度が測定できない個体にも精子が観察された。以上より、4種の血清中性ホルモン濃度は成熟および未成熟クジラ間で差が見られなかった。 しかし、2種のクジラ間で成熟ニタリクジラのFSH濃度が高かったこと、および精細管内組織像から、ニタリクジラの繁殖期がミンククジラより長いと考えられた。 更に低値のT濃度から、索餌期の精子形成活性は低いことが示唆された。


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