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鯨類の生物学的研究(2002年10月〜2003年9月)

南半球産ミンククジラ(クロミンククジラ)捕獲調査(JARPA)  
北西北太平洋産ミンククジラ捕獲調査(JARPN)及び第2期北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPNU)  
アセスメントのための目視調査航海  
その他の研究活動


南半球産ミンククジラ(クロミンククジラ)捕獲調査(JARPA)関係の研究活動

(a.1)野外調査

 第16回のJARPAは2002年12月2日から2003年3月8日まで、X区及びVI区西側で実施した。日新丸は調査母船として船団の指揮を行い、また採集したクロミンククジラの生物調査を実施した。 第二勇新丸、勇新丸、第一京丸は目視採集船として目視調査と鯨の採集を担当した他、実験の一部を担当した。第二共新丸は目視調査のみを行う目視専門船として行動し、実験・観察などを担当した。
 本調査には、西脇調査部長が調査団長、茂越調査部採集調査室研究員が生物調査首席調査員並びに同部村瀬観測調査室研究員が目視採集調査首席調査員及び研究部の安永生態系研究室研究員が生物調査員として参加した。
 本年度の調査結果の概要は以下の通りである。 航海の詳細は、2002/2003年JARPA航海報告書(SC/55/O6)に記述されている。

(a.1.1)目視調査

 本年度調査では目視専門船が5,413.5マイルを探索し、一次発見879群2,077頭及び二次発見63群230頭のクロミンククジラを確認した。 また、目視採集船は3隻で18,126.2マイルを探索して、一次発見1,582群4,506頭及び二次発見153群477頭のクロミンククジラを確認した。表1に本年の調査で確認した全ての鯨種毎の群・頭数を示した。 種判定ができた鯨種は15種類(ドワーフ(矮小型)ミンククジラを含む)で、ヒゲクジラ類7種及びハクジラ類8種を確認した。 クロミンククジラは、調査海域全体を通じて優占種であった。 ドワーフミンククジラの発見は6群6頭で、クロミンクジラの発見の0.4%のみであった。
 クロミンククジラは調査海域に広範囲かつ高密度に分布した。 発見の多い上位6種をみると、クロミンククジラ(76.1%)、シャチ(11.5%)、ザトウクジラ(4.2%)、ナガスクジラ(3.6%)、ミナミトックリクジラ(3.2%)、マッコウクジラ(1.4%)であった。 クロミンククジラが優占種であったことに変わりはないが、ザトウクジラやナガスクジラ及びミナミトックリクジラの発見が調査を重ねる毎に、わずかながら増えている傾向が見られる。 これらの発見の増加傾向は、資源管理及び南極生態系を把握する上で、極めて意味が大きい。

表1 2002/2003年JARPAにおける全鯨種別全発見群頭数
鯨種
目視専門船
目視採集船(3隻)
総計
群数
頭数
群数
頭数
群数
頭数
クロミンククジラ
942
2307
1735
4983
2677
7290
ドワーフミンククジラ
6
6
6
6
ミンククジラらしい
19
22
19
22
38
44
シロナガスクジラ
5
12
4
4
9
16
ナガスクジラ
24
170
32
59
56
229
イワシクジラ
2
2
6
12
8
14
ザトウクジラ
46
82
115
179
161
261
ミナミセミクジラ
3
3
3
3
ヒゲクジラ類
46
157
72
117
118
274
マッコウクジラ
44
45
91
91
135
136
シャチ
19
421
53
678
72
1099
ミナミトックリクジラ
18
38
85
141
103
179
ミナミツチクジラ
1
15
2
17
3
32
ミナミオウギハクジラ
5
14
5
14
ヒモハクジラ
1
2
1
2
オウギハクジラ属
4
8
4
8
アカボウクジラ科鯨類
10
16
105
143
115
159
ヒレナガゴンドウ
3
61
11
385
14
446
ダンダラカマイルカ
10
91
23
136
33
227
鯨種不明イルカ類
2
6
1
3
3
9
鯨種未確認
27
37
141
142
168
179
総計
1218
3482
2514
7145
3732
10627

(a.1.2)生物調査

 発見鯨群の構成頭数を確認した後、目視採集船は440個体を上限とするクロミンククジラの採集を行った。 目視採集船3隻は一次発見1,582群4,506頭のクロミンククジラの内、479群928頭を採集対象として440頭(X区で330頭、VI区西側で110頭)を採集した。 これらの個体(雄235頭、雌205頭)は全て調査母船の甲板上で生物調査を行った。 表2に、生物調査により収集した標本とデータの概要を示した。

表2 2002/2003年JARPAの生物調査で収集された記録と標本の概要

調査項目 雄の頭数 雌の頭数 合計
外部形態の写真記録 235 205 440
体長計測 235 205 440
プロポーションの計測 235 205 440
体重の計測 235 205 440
組織重量の測定 35 35 70
頭骨の計測(最大長、最大幅) 226 200 426
脂皮厚の計測(5部位) 235 205 440
脂皮厚の計測(詳細) 35 34 69
泌乳状態の記録 - 205 205
乳腺の観察と計測(最大長、最大幅) - 205 205
子宮角幅の計測  - 205 205
精巣・精巣上体の重量測定 235 - 235
胃内容物の重量測定 235 205 440
胎児の写真記録 55 60 131※
胎児の体長及び体重測定 55 56 123※
胎児プロポーションの計測 54※※ 57※※ 111
肋骨の計数 235 205 440
ダイアトムフィルム 235 205 440
化学分析用血清 235 235
年齢査定用耳垢栓 235 205 440
科学分析用耳垢栓 9 9 18
年齢査定用鼓室骨 235 205 440
年齢査定用髭板 42 55 97
形態及び化学分析用髭板 234 205 439
脊椎骨骨端板 235 205 440
卵巣 - 205 205
子宮内膜組織 - 205 205
乳腺組織 - 205 205
化学分析用乳汁 - 1 1
精巣組織 235 - 235
精巣上体組織 235 - 235
精巣・精巣上体スメア 235 - 235
遺伝学分析用組織(表皮、肝臓、腎臓、心臓、脂皮、筋肉) 235 205 440
重金属分析用組織(肝臓、腎臓、筋肉) 235 205 440
有機塩素分析用組織(肝臓、脂皮) 235 205 440
脂肪酸分析用組織(肝臓、脂皮、筋肉) 35 33 68
食性研究用胃内容物 55 39 94
重金属分析用胃内容物 12 14 26
有機塩素分析用胃内容物 9 11 20
脂肪酸分析用胃内容物 13 15 28
外部寄生虫 51 41 92
内部寄生虫 45 25 70
胎児 - - 9
胎児遺伝学分析用組織(表皮、肝臓、腎臓、心臓、脂皮、筋肉) 57※※※ 58 115
体外受精研究用卵子 - 118 118
細胞培養用胎児血清 10 9 19
細胞培養用胎児皮膚細胞 4 10 14
細胞培養用卵胞液 10 14 24
形態観察用胎盤 42 48 90
形態観察用胎児胸鰭 12 12 24
形態観察用胎児肝臓、腎臓、脾臓 9 7 16
形態観察用肝臓、腎臓、脾臓 1 2 3
胃内容物 3 1 4

※ 微小胎児は性別不明のため合計に含めた
※※ 銛により一部破損した胎児は計測可能部位のみ計測
※※※ 銛により一部破損した胎児は表皮、心臓、脂皮、筋肉、腎臓のみ採集

(a.1.3)その他の調査

(a.1.3.1)自然標識記録(Photo-ID)

2002/2003年調査では、シロナガスクジラ3個体、ザトウクジラ14個体及びミナミセミクジラ3個体に対して自然標識記録のための写真撮影を行った。 現在、当研究所の自然標識カタログに追加できる有用な写真の確認作業を行っている。

(a.1.3.2)バイオプシー採取

 2002/2003年調査では、ナガスクジラから6標本、ザトウクジラから10標本、ミナミセミクジラから2標本、クロミンククジラ、イワシクジラ、マッコウクジラ、シャチより各々1標本の合計22標本を採取した。 また、浮漂する鯨類死体より1標本採取した。

(a.1.3.3)計量魚探による餌生物の現存量調査

 第二共新丸は計量魚探(EK500シムラッド社製)を用いて餌生物(主にナンキョクオキアミ)の現存量調査を行った。 このシステムにより目視調査期間中69日間のデータを収集した。

(a.1.3.4)音響調査

 第二共新丸はソノブイを用いて音響調査を行い、VI区西側海域及びX区東側海域で5日間の鳴音採集を試みた。

(a.1.3.5)海洋観測

第二共新丸はXCTD及びCTD(シーキャットプロファイラー、SBE19、シーバード・エレクトロニクス社)を用いて海洋観測を行い、合計167点からプロファイルを得た。
第二共新丸及び勇新丸は、表面水温及び伝導度、表層クロロフィル−a濃度、溶存酸素濃度、表層粒子数、流量を連続計測するEPCS(Electronic Particle Counting and Sizing System)を用いた海洋観測を行った。調査期間中に、第二共新丸で89日、第二勇新丸で96日の観測データを得た。

(a.1.3.6)距離角度推定実験

 目視専門船は2002年12月31日及び目視採集船は2003年1月2日に実験を行った。

(a.1.3.7)海洋漂流物調査

 目視調査期間中に海洋漂流物調査を行い、5個のプラスチックブイと2本のドラム缶を観察。 鳥の羽根、プラスチック片や木片が、クロミンククジラ4個体のヒゲ板列や第2胃から発見された。

(a.2) 調査器材及び技術の開発と改良

(a.2.1) 目視データ集計システムの改良(松岡耕二、冨沢光平(富士総研))

 本年度は、入力エラーに対応するチェック機能の追加や解析ソフトへの読込作業省力化を行った。 また、自動入力と集計システムを統合する新たな集計システムの検討を行った。

(a.2.2) 鯨類鳴音録音回収型ソノブイの開発(松岡耕二、村瀬弘人、西脇茂利、福地鉄雄(システム技研)、島田裕之(遠水研))

 前年に引き続き、鳴音データを収集し、録音状態の評価と解析を行っている。

(a.2.3) 目視調査データ自動入力システムの開発(村瀬弘人、木和田広司、松岡耕二、西脇茂利)

本システムは、鯨類目視調査船において、航海機器、海気象観測機器及びコンピュータを船内ローカルエリアネットワーク(LAN)にて接続し、調査員が効率的に間違いのないデータをリアルタイムで記録することを目指している。 また、これと平行してデータベースを構築することにより、膨大な量となる、鯨類目視データの一元管理も行えるようになる。
現在、鯨類目視調査船では発見鯨、航行及び天候に関する情報を調査員及び乗組員が分担しながら、記録用紙に記入し、調査終了後コンピュータ入力を行っている。 本システムは1992年より検討を進めていたが、近年、コンピュータが小型化、低価格化されているのに伴い、現状の調査に耐えうるシステムの開発が可能となった。 導入により@正確な発見時刻・位置の記録、A入力ミスの低減。B調査員労働環境の改善などが期待される。

(a.2.4) 衛星海氷データの収集と解析(村瀬弘人、和田淳、木和田広司)

 安全航海の確保は無論のこと調査の計画立案には海氷データの収集は必要不可欠である。 また、鯨類と海氷変動との関係も注目を集めている。昨年度に引き続き、ナショナル・アイス・センター(NIC、アメリカ)がインターネット上で公開している海氷データ(Sea Ice Analysis)及びナショナル・スノー・アンド・アイス・データセンター(NSIDC、アメリカ)の発行する衛星データ(DMSP SSM/I)の収集を行った。 衛星データ(DMSP SSM/I)を用いて、調査に合わせて画像を作成したり、海氷面積の算出をするために、専用のソフト「Antarctic Sea Ice Analyst(ASIA、アジア)」を開発し使用している。 ASIAを用いて処理した画像は、JARPA及びSOWERの調査船に電子メールを用いて配信し、安全航海の確保および調査の計画立案に大いに役立てられた。 特に、2002/2003年のJARPAにおいては、ロス海の海氷状態が不安定であったが、衛星情報も駆使したことにより、ロス海湾奥部での調査を安全に実施することができた。

(a.2.5) 日新丸船内LANの構築(村瀬弘人、西脇茂利、茂越敏弘、木和田広司、大谷誠二)

 日新丸船内では、調査で得られた生物データや目視データ、また天候や海氷といった運行に関わる情報を複数の部署で共有し使用している。 これらの情報の共有および管理を円滑に行うため、船内LANの構築計画を進めている。

(a.2.6) 赤外線探鯨システムの開発(西脇茂利、松岡耕二、村瀬弘人)

海産哺乳類の夜間における回遊や索餌行動に関して、赤外線カメラ映像により画期的報告が近年なされている。 赤外線による感熱認知は、夜間のみならず濃霧や曇天時の照度低下による観察不良時において、光源認知に比べてその真価を発揮する。 赤外線映像もまたアナログからデジタル化が実現し、映像の解像度の向上と多様な解析が可能になった。 また、ハードにおける開発が進み、監視システムにみられるような連続撮影が実現している。
近年、監視システムとして装備されているスタビライザーに赤外線カメラ及び高感度カメラを搭載することで、新たな探鯨システムを開発する現実性は昨年度の年報において紹介した。 現在、EPCSなどの海洋環境情報やレーダーなどの周辺環境情報及び鯨探機などの水中音響情報を集積し同時に解析することで、誤認の回避や追跡補助のための有効利用及び目視調査における見逃し率の推定を目標に開発を進める方向で、調査船の船内LANシステムのハード面及びソフト面の構築を進めている。

(a.2.7) 衛星標識装置と装着方法の開発(西脇茂利、松岡耕二、村瀬弘人)

 アメリカ・テロニクス社製衛星標識を採用し、衛星標識装置の小型化及び堅牢化に伴う直接装着の実用化について検討を行っている。2002/2003年JARPAでは、曳航式による装着を試みたが、発射装置の誤作動により装着できなかった。 衛星標識の軽量化及び小型化が進み、既存の発射装置(長尺ICR銃)による発射が見込めるようになったことから、鯨体への直接装着の開発に取り組むことになった。 陸上及び洋上で、有効射程距離における弾道及び装着力を実験し、バイオプシー採集と同程度の性能が確保できることが証明された。 直接装着のための衛星標識装置は、2003/2004年JARPAより鯨体への装着を試みる。

(a.2.8) ノルウェー製新型爆発銛先(グレネード)と改良型信管の実験(石川 創、大谷誠司、茂越敏弘)

 鯨の捕殺技術向上のため、昨年に引き続きノルウェー製新型グレネードを300本輸入し2002/2003年JARPA及び2003年JARPNUにおいてミンククジラを対象に使用して従来の導爆線とのデータ比較を行った。 また2002/2003年JARPAでは、従来型導爆線についても改良信管を併用してデータ収集を行った。 データ分析の結果、グレネードが導爆線に比較して致死時間の短縮に効果があることが示されるとともに、改良型信管の使用で導爆線の能力が向上することが示唆された。 これらの結果は本年ベルリンで開催されたIWCの鯨類捕殺技術に関するワークショップで報告された。今後は改良型信管を用いた導爆線の実験が予定されている。

(a.3) 実験の技術・手法の開発

 東京工業大学との共同研究として、核DNA中に存在するSINE領域を用いて鯨類の系統分析を行っているが、この結果に基づき、大型鯨類に関して市場調査で得られた鯨肉製品や座礁個体の種判別作業を従来のミトコンドリアDNA(mtDNA)の塩基配列解読法に比べて、極めて迅速で廉価に行えるようになった。

(a.4) 研究の進展

(a.4.1) 生物学的特性値

 鯨類資源の管理を改善する上で生物学的特性値は有用な情報である。 資源を代表する鯨体標本の採集と資源量推定値に基づき、クロミンククジラ資源の生物学的特性値を推定する作業が進められている。

(a.4.1.1) 年齢査定(銭谷亮子、加藤秀弘(遠水研)、中村隆(統数研)、藤瀬良弘)

 JARPAで採集されたクロミンククジラの各個体の年齢情報は、鯨類資源の管理を改善する上で有用となる自然死亡率、加入率、性成熟年齢などといった生物学的特性値を推定するための基礎となるデータである。 従って、毎年調査で採集した耳垢栓やクジラヒゲを用いて年齢査定作業を行い、年齢データの蓄積を行っている。 2001/2002年に採集されたJARPAの年齢査定作業は終了し、引き続き、2002/2003年にJARPAで採集されたクロミンククジラの査定作業を行っている。

(a.4.1.2) 年齢組成(銭谷亮子、藤瀬良弘、坂東武治、加藤秀弘(遠水研)、岸野洋久(東大))

無作為抽出法によって採集されたクロミンククジラの推定された年齢データを用いて、個体の群れサイズ別の抽出率や推定資源量によって補正し、海区に来遊するクロミンククジラ資源の年齢組成を推定する作業を行っている。
W区の1989/1990年から1999/2000年の6年分及びX区の1990/1991年から2000/2001年の6年分の来遊盛期における年齢データを用い、各年度の雄、雌別の粗年齢組成を求め、予備的にDISTANCEで推定された資源量を用いて、層別群れサイズ毎に重み付けし、年齢組成の推定作業を行った。 また、ここで推定された年齢組成データを用いて自然死亡率の推定作業が行われた。 現在、年齢組成の推定に必要な資源量は、これまでに指摘された高密度海域のスキップによるバイアスの補正方法の検討が行われている。今後、検討された方法で推定されたいくつかの資源量を用いて年齢組成の推定作業を行い、その年齢組成を比較することにより、資源量のバイアスの補正効果について検討する必要がある。

(a.4.1.3) 生物学的特性値の推定(銭谷亮子、藤瀬良弘、坂東武治、加藤秀弘(遠水研)))

性成熟率、性成熟体長、性成熟年齢、年間排卵率、妊娠率、成長曲線等の生物学的特性値の推定作業は当研究所と遠洋水産研究所との共同研究として行っている。
W区の1989/1990年から2001/2002年の7年分及びX区の1990/1991年から2000/2001年の6年分の全データを用いて、海区別、年度別、雄雌別の性成熟体長、性成熟年齢、妊娠率を推定し、経年変化について検討した。 サンプリングバイアスや資源量推定のバイアスの問題が解決された後に、資源量で補正して再度推定すると共に、最終的には遺伝解析の結果に基づいて確定した系群毎に特性値の推定を行う予定である。

(a.4.1.4) 自然死亡率の推定(田中栄次(東水大)、藤瀬良弘、加藤秀弘(遠水研)、田中昌一)

 W区の1989/1990年から1999/2000年の6年分及びX区の1990/1991年から2000/2001年の6年分の最盛期における年齢データを用い、予備的に、DISTANCEで推定された資源量で、層別群れサイズ別に補正し、点推定した年齢組成をもとに、自然死亡率の推定を行った。 検討が進められているバイアスの補正作業後に、再度推定作業を行う予定である。

(a.4.1.5) 棲み分けの研究(藤瀬良弘、田村力、岸野洋久(東大))

 南極海におけるクロミンククジラの棲み分けのパターンを解明するために、雄の比率、雄雌それぞれの性成熟率などの生物学的特性値に対して、変数選択法を取り込んだロジスティック・モデルを用いた解析を東京大学との共同研究で行っている。

(a.4.1.6) 脊椎骨による肉体成熟の検討(銭谷亮子、藤瀬良弘、坂東武治)

クロミンククジラの肉体成熟は、脊椎骨の椎体と骨端盤の間の軟骨組織をトルイジンブルー水溶液で染色し、軟骨組織の有無から各個体の成熟状態を判定している。
1989/1990年及び1999/2000年にW区で採集されたクロミンククジラの雌の第6胸椎切片を用いて、肉体成熟体長及び年齢について検討した。 2年度間を比較したところ、肉体成熟体長には違いは認められなかったが、肉体成熟年齢は増加している傾向が示唆された。 これらの結果は日本大学学部生の卒業論文として取り纏めた。
さらに、W区の1989/1990年及び1999/2000年の雄、1995/1996年、X区の1990/1991年、1992/1993年、1996/1997年及び2000/2001年の第6胸椎から肉体成熟を判定し、肉体成熟体長及び年齢の経年変化等の検討作業を行っている。

(a.4.2) 南極海生態系

 JARPAの第2の主目的である南極海生態系における鯨類の役割解明のための予備調査は、調査が開始された1987/1988年からの目的として鯨類の胃内容物調査を中心に研究を進めている。

(a.4.2.1) 南極海生態系における鯨類の役割(田村力、小西健志、大隅清治、藤瀬良弘、一井太郎(遠水研))

 南極海生態系におけるクロミンククジラの果たす役割を、本種と餌生物の相互作用の観点から研究している。 2000/2001年JARPA以前に採集した胃内容物の解析を終了した。 今後はJARPAレビュー会議に向けた解析を行う予定である。

(a.4.2.2) 南極海におけるシャチによるクロミンククジラ捕食の研究(石川創、田中栄次(東水大)、山之内祐子(東水大)、大谷誠二、茂越敏弘)

 クロミンククジラ体表に見られたシャチ咬傷の記録の分析と検討を行い、シャチがクロミンククジラを襲う場合は胸鰭などを噛んで行動を抑制し溺死させる可能性が示唆された。 また体長や年齢別の頻度分布から、成熟個体より未成熟個体の方が捕食対象になりやすいことが示唆された。 目視記録の分析により、南極海におけるシャチの発見頻度はクロミンククジラの高密度海域で高く、捕獲個体の傷の頻度も高くなることが示された。これらの結果は日本野生動物医学会大会において発表された。

(a.4.2.3) 南極海におけるクロミンククジラの寄生虫相(大谷誠司、倉持利明(国立科博))

 これまでのJARPAで収集された膨大な量のサンプルから、主に線虫類を対象としてその同定作業を引き続き進めている。

(a.4.3) 環境変動

 JJARPAで得られたクロミンククジラの組織及び胃内容物の標本を用いて、南極海におけるクロミンククジラ及び生態系における有機塩素化合物やPCBs、重金属などの環境汚染物質の蓄積及びその変動について研究を行っている。 汚染物質の蓄積レベルは個体の性や年齢などによって変動し、また地理的・時間的にも変動することからこれらの要因について検討を行っている。

(a.4.3.1) クロミンククジラにおける重金属蓄積(藤瀬良弘、安永玄太、本田克久(三浦環科研)、青木昌弘(三浦環科研))

JARPA(〜1999年)の解析結果から、クロミンククジラの体内の水銀濃度に経年変動のあることが示唆されており、シロナガスクジラとクロミンククジラの種間競合の結果として、クロミンククジラの摂餌量が増加し、これに伴って水銀の取り込み量が増加したとの仮説を提案したが、この仮説を更に確認するために、異なる年(1988/1989年から1998/1999年まで)に採集したクロミンククジラの肝臓試料(200個体)中の重金属の分析を行っている。
また、クロミンククジラ100個体の胃内容物から採取したオキアミ類の重金属分析を行っており、結果の一部については、平成15年度環境化学討論会において発表した。

(a.4.3.2) クロミンククジラにおける有機塩素化合物の蓄積(田辺信介(愛媛大)、藤瀬良弘)

 愛媛大学と共同して、クロミンククジラの脂皮中に含まれる有機塩素化合物の分析をすすめている。 これまで、クロミンククジラの脂皮中の有機塩素化合物濃度は、北半球の鯨類に比べて低濃度であるが、特にPCBsは商業捕鯨時代から捕獲調査まで年がすすむにつれて濃度の上昇傾向を示していた。 しかしながら、1990年代半ばから、PCBはわずかに低減傾向があり、今後も引き続き、モニタリングする予定である。

(a.4.3.3) ヒゲクジラ類とオキアミ類の分布関係に関する研究(村瀬弘人、木和田広司、松岡耕二、一井太郎(遠水研)、西脇茂利)

 鯨類とその餌生物の関係を解明することは、南極海生態系における鯨類の役割の解明、またヒゲクジラ類分布を予測する上で重要である。 このため、1998/1999年より計量魚探を用いて鯨類餌生物現存量調査を実施している。 1998/1999年及び1999/2000年の結果についてはすでに結果をとりまとめ、IWC、学会誌等で結果を公表している。本年度は、それ以降2002/2003年までのデータ解析を進め、来年以降結果を発表するための準備を進めた。 今後は、複数年度に渡るデータを使用して関係の年変化、季節変化に関する研究、ならびに衛星による海氷データやXCTDによる海洋構造データなどと組み合わせ、南極海生態系の解明に向けて解析を継続していく。

(a.4.3.4) 南極海の海洋構造とその年々変動に関する研究(松岡耕二、木和田広司、矢吹崇、須賀利雄、花輪公雄(東北大)、渡辺朝生(中央水研))

 JARPAにおける海洋観測は1987/1988年からXBT、1997/1998年からXCTD、CTD、EPCS(表層環境モニタリング装置)による海洋観測が実施されている。 昨年から、新たな体制の下で、現在まで集積された各種観測データを有効に活用するため改めて品質管理を行い、データベース構築作業を開始し、南大洋(南極海)夏季の各層水温面分布、密度等の平均的な分布など海洋構造の解析を行っている。 本年度は、南極海W区のプリッツ湾における海洋構造について詳細な解析を行った。 本解析結果は、International Union of Geodesy and Geophysics XXIII General Assembly において「Evidence of the Antarctic bottom water source in the Prydz Bay region」(Yabuki et al., 2003)として報告し、今後は海洋構造と鯨類分布の詳細な比較検討を行う予定である。

(a.4.4) 系群構造

 JARPAの系群識別の研究は遺伝学的方法と非遺伝学的方法(例えば、外部形態)を用いて行われている。

(a.4.4.1) 遺伝分析によるクロミンククジラの系群構造(ルイス・パステネ、後藤睦夫、上田真久)

1987/1988年から2001/2002年にV区東側と区西側から採集された標本を用いて、ミトコンドリアDNA(mtDNA)の制限酵素切断片長多型(RFLP)分析による、クロミンククジラの系群構造を調べた。 計4,982頭を時間的、地理的要素で12の時空間グループに分類し、AMOVA法(FstとPHIst)を用いて異質性の検定を段階的に行った。 結果はこれまでの解析と同様にVI区西側、X区およびW区西側の一部がコア系群を構成しており、それとは遺伝組成が異なるグループ(西側系群)がW区西側に分布することが示唆された。 しかしながら、西側系群の分布をより明確に把握するためには、さらに異なる時期と経度的要素を考慮した解析が必要であると考えられた。(SC/55/IA8参照)。
なお、マイクロサテライトDNAによる遺伝解析は、現在7遺伝子座(DlrFCB14、EV1、EV104、GATA98、GT23、GT195、GT211)を用いて、1989/1990年から2001/2002年の標本に対して行われている。

(a.4.5) 目視調査・資源量推定

 資源量推定は資源解析に用いられるのみならず、第1の主目的である生物学的特性値の推定において調査海域に来遊する資源の特性値を推定する際に必要となる要素でもあり、主目的の解析と同時に進められている。

(a.4.5.1) 空間的モデルによるJARPAクロミンククジラ資源量推定(フェルナンダ・マルケス(イギリス・セントアンドリュース大学)、シャロン・ヘッドレイ(イギリス・セントアンドリュース大学)、袴田高志、松岡耕二)

 セントアンドリュース大学との共同研究で、より不偏な資源量の推定を目的にして、JARPAのデータに基づくクロミンククジラの1989/1990年から1999/2000年の6年分のW区での資源量を空間的なモデルを用いて推定した。密 度を緯度、経度、氷縁からの距離などの地理的情報を変量とするモデル式で表すことにより、未調査部分の補完を行った。 この結果は今年の第55回IWC/SCで報告されたが、現在そこで指摘された検討課題を考慮に入れ、W区の再解析とX区(1990/1991年〜2000/2001年の6年分)の解析を行っている。

(a.4.5.2) 空間シミュレーションによるライントランセクト法正面発見確率g(0)の推定と個体数推定値の妥当性の検討(池田尚聡(北大)、松石隆(北大)、西脇茂利、松岡耕二、袴田高志、村瀬弘人、藤瀬良弘)

北海道大学大学院水産科学研究科との共同研究として、鯨類の遊泳行動に関するデータ(潜水時間、浮上時間、移動速度、移動方向、行動特性、分布等、目視発見記録(日時、座標、天候、発見の手がかり、発見状況)、目視努力量記録(目視時間、目視角度、視野範囲、観測者数、船速、観測距離)などの資料をもとに、クロミンククジラの発見確率g(0)の推定と個体数推定値の妥当性について検討を行っている。
W区の1997/1998年及び1999/2000年の資料を用い、シミュレーションによって求められたクロミンククジラ1頭群の発見確率分布関数を求めた。 これにより、今後の研究展望として、@複数群の発見確立分布関数の推定、A発見確率分布モデルの選択、B鯨類の移動と噴気同期性の検討、Cシミュレーターアルゴリズムの再検討が課題としてあげられた。現在、さらなる資料を含め解析を進めている。

(a.4.6) その他

(a.4.6.1) 他の大型鯨種の系群構造

@ザトウクジラ(ルイス・パステネ、後藤睦夫、上田真久、西脇茂利、パー・パルスボール(アメリカ・カリフォルニア州立大学バークレー校))

 カリフォルニア州立大学バークレー校との共同研究で、JARPAで採集されたバイオプシー標本を利用し、南半球産ザトウクジラの系群構造を明らかにするために、核DNA(nDNA)とミトコンドリアDNA(mtDNA)の遺伝的解析が行われている。JARPAバイオプシー標本にT区から採集された12標本を加え、@mtDNA制御領域の塩基配列と、Aマイクロサテライトの7遺伝子座(GATA417、GATA28、GATA98、TAA31、GATA53、GGAA520、GT23)の変異を解析した。 これらの標本に低緯度海域である西オーストラリア、トンガ、コロンビアから採集された個体のmtDNA塩基配列データを加えて包括的な解析を行っている。 これらの解析の結果については今後早い時期に報告する予定である。

Aシロナガスクジラ(リック・レダック(アメリカ・南西水産科学センター:SWFSC)、アンディー・ディゾン(SWFSC)、ルイス・パステネ、後藤睦夫、加藤秀弘(遠水研)、ボブ・ブラウネル(SWFSC))
 南西水産科学センター(SWFSC)との共同研究で、南半球のピグミーシロナガスクジラとシロナガスクジラの遺伝学的な差異を明らかにするために、JARPAで採集したバイオプシー標本を用いて遺伝分析を行い、アメリカ側のデータと併せた検討を行っている。 これまで南東太平洋、インド洋、南極海の3つの海域から採集された110標本に対して、mtDNA及びマイクロサテライト(7遺伝子座)の2つの遺伝マーカーを用いた解析が行われた。 その結果、ピグミーシロナガスクジラでは3つの海域間の遺伝的な違いは確認されたが、これらの解析を用いてもシロナガスクジラとピグミーシロナガスクジラを明白に分類するには至っていない(SC/55/SH9参照)。

Bシロナガスクジラ(キャロル・コンウェイ(アメリカ・カリフォルニア州立大学デービス校)、上田真久)
 カリフォルニア州立大学デービス校との共同研究で、核DNAのイントロン領域における遺伝的変異性を指標に、世界各地から採集した標本を用いてシロナガスクジラの系群構造の解析を行っている。 当研究所より1994/1995年から2001/2002年JARPAで採集したバイオプシー標本16個体を提供した。現在解析中である。

Cナガスクジラ(後藤睦夫、マルチネ・ベルーベ(アメリカ・カリフォルニア州立大学バークレー校)、上田真久、石川創、西脇茂利、ルイス・パステネ)
 2000/2001年JARPAでバイオプシーにより南氷洋で採集された9検体、JARPNのバイオプシー(2検体)と日本周辺で混獲・座礁した標本(4検体)5検体および既報の北大西洋、地中海、東太平洋の標本データ(55ハプロタイプ)を基にmtDNAの制御領域の塩基配列に基づくナガスクジラの海洋間の系統解析を行った。 その結果、南氷洋と太平洋の標本は同じグループに属し、さらにこのグループには北大西洋の2つのハプロタイプも含まれており、海域特異的なグループは存在しなかった。 このことはナガスクジラの各海域への分化は比較的、浅い年代に起こった可能性を示唆している(SC/55/SD6参照)。

(a.4.6.2) 大型鯨種の自然標識による個体識別

@シロナガスクジラ・セミクジラ(ジョン・バニスター(オーストラリア・西オーストラリア博物館)、ルイス・パステネ、松岡耕二)

 JARPAで収集されたシロナガスクジラ及びセミクジラの写真撮影による自然標識記録については、西オーストラリア博物館と共同研究を行っている。 これまで1991/1992年から2001/2002年のJARPAから、シロナガスクジラは少なくとも56個体を含む130枚、セミクジラでは少なくとも34個体を含む189枚が登録されている。

Aザトウクジラ(ルイス・パステネ、松岡耕二)
 当研究所が保管するJARPAで収集されたザトウクジラの写真撮影による自然標識記録は、IWCに委託されているアメリカのCollege of the Atlantic(COA)が管理する「Antarctic Catalogue」に提出されている。 これまで1989/1990年から2000/2001年のJARPAから、少なくとも228個体を含む447枚が同カタログに登録されている。

(a.4.6.3) 他の大型鯨類の分布・資源量に関する研究

(a.4.6.3.1) 南極海における鯨類の分布と資源量に関する研究(松岡耕二、袴田高志、村瀬弘人、西脇茂利)

本年度は、1989/1990年から2001/2002年度のデータを用いたザトウクジラの解析を行った。 その結果、同種のW区における資源量は、2001/2002年度調査で約30,000頭(CV=0.27)、X区では2000/2001年度で約4,300頭(CV=0.48)と推定され、W区に多く回遊することが確認された。 また、1988/1989年と1998/1999年のIWC/IDCR・IWC/SOWERデータを用いた解析結果では、W区で約7,400頭(CV=0.73)、X区で約17,300頭(CV=0.17)と推定され、同種の1988年から2002年までの年間増加率は12.5%(CV=0.58)と推定された。 本解析結果は、SC/55/SH10としてIWC/SCに報告した。
また、JARPAで発見された鯨類分布の把握を目的として、1987/1988年から2002/2003年までの努力量及び1次発見データを用いて、緯度経度1度ごとのグリッド集計を行った。 現在、GISを用いて各鯨種の年別および月別の分布について解析を行っている。

(a.4.6.3.2) 南半球産シロナガスクジラの年間増加率推定(トレバー・ブランチ(アメリカ・ワシントン大)、松岡耕二、宮下富夫(遠水研))

 南半球産シロナガスクジラの年間増加率推定を目的として、IWCが管理する捕獲統計(1909年から1941年)、IWC/IDCR・IWC/SOWERの各資源量推定値(1981年、1988年、1996年)、日本の探鯨船(JSV:1965年から1987年)、JARPA(1989/1990年から2001/2002年)の各発見数と努力量を用いてワシントン大学との共同研究として解析を行った。 その結果、南極海における同種の年間増加率は8.2%(95%の信頼区間:1.7%-12.2%)と推定された(SC/55/SH6参照)。

(a.4.7) JARPAの目的及び今後の検討事項に対する調査結果の貢献

以前の報告書でも指摘されている通り、JARPAで実施されている新しい研究のほとんどは、1997年のIWC/SCで特定されたJARPAの主要事項に焦点が当てられている。 特に重要なのは偏りのない資源量の推定である。 このような解析はセントアンドリュース大学(イギリス)との共同研究として行っている。 予備的な検討結果が過去のIWC/SCでも報告されたが、さらに今年の第55回IWC/SCでW区における資源量推定値が報告された(a.4.5.1参照)。 X区については来年のIWC/SCで報告の予定である。
ミトコンドリアDNA(mtDNA)のRFLP分析による系群識別は今後も続けられ、最近、系群構造のより包括的な見解を得るために核DNA上の新しい遺伝的マーカーによる解析も始まっている。 とりわけ6回分のJARPAで採集された標本についてマイクロサテライトの変動を調べている。 また、汚染物質の蓄積レベルなどのエコロジカルマーカーも系群識別の研究のために用いられている。 mtDNAのRFLP分析の結果、遺伝的な時空間的変動が、W区東部、X区、VI区西部よりもW区西部やV区においてより顕著に見られた。 VI区西部で実施された3回の調査により、年による遺伝的変動があまりないことがわかった。 X区とVI区のクロミンククジラは遺伝的に近い関係にあると思われる。 これらの海区での系群構造のより包括的な見解を得るよう、異なる手法で得られた結果を検討し解釈する必要がある。 以前にも述べたように、系群構造の情報を考慮に入れて、生物学的特性値を推定すべきである。
重要な技術的改良が、南極海での海洋環境データ(a.4.3.4を参照)の収集においてなされた。 また、鯨の分布と海洋環境、更にオキアミ分布との関係を理解することを目的とした論文が完成し、いくつかは出版された。
クロミンククジラ、その餌生物、周辺環境の汚染蓄積レベルの新しい知見が得られており、分析を行っているところである。 これらの分析は鯨類への環境変動による影響について理解するために行われている。

(a.5) その他の研究の進展

(a.5.1) ミンククジラの前腕骨における骨形成過程に関する研究(伊豆弥生(日獣大)、添田聡(日獣大)、石川創、神谷新司(日獣大)、斉藤徹(日獣大)、山野秀二(日獣大))

 2001年より開始された本研究では、これまでにクロミンククジラの長管骨における膜性骨化の過程の形態学的検索を行い、胎生期と成熟期及び前腕骨の外側と内側では、膜性骨の形成パターンが異なっていることが明らかとなった。 これらの結果は日本獣医学会学術集会で発表された。

(a.5.2) クロミンククジラ及び他鯨類の繁殖生理に関する研究(福井豊(帯畜大)、手塚雅文(帯畜大)、佐々木基樹(帯畜大)、保地眞一(信州大)、石川創、茂越敏弘、大隅清治)

 帯広畜産大学との共同研究で、クロミンククジラ及び他鯨類の繁殖生理に関する研究の一環としてクロミンククジラ胎児卵巣内の前胞状卵胞の発現と胎児・臍帯・母体中性ホルモン濃度の関連性を調べた。 前胞状卵胞数と卵胞の大きさの増加は胎児の成長に伴って観察された。 胎児心臓・臍帯・母体末梢血中のステロイドの変化は胎児体長70cmのあたりで見られた。 胎児と胎盤でステロイドの合成が徐々に高まっていることが示された。 また本研究では前胞状乱卵胞の発育はゴナドトロピンによらないものであることが示唆された。

(a.5.3) クロミンククジラ体細胞クローン胚作出に関する基礎研究(福井豊(帯畜大)、手塚雅文(帯畜大)、石川創、茂越敏弘、大隅清治)

 帯広畜産大学との共同研究で、クロミンククジラ及び他鯨類の繁殖生理に関する研究の一環としてクロミンククジラ体細胞クローン胚作出に関する基礎研究を行った。 現在研究に供試可能な卵子数は限られており、新鮮な卵子を入手することも非常に困難な状況であることから、異種間体細胞核移植技術を応用することを試みた。 レシピアント卵子には培養系の確立している屠場由来ウシ卵子を用い、ドナー細胞には2000/2001年JARPAにおいて採取し、凍結融解したクロミンククジラ卵胞内顆粒層細胞を用いた。 体外成熟卵子における除核方法、再構築胚の体外培養液中へ添加する血清の種類、活性化処理法を検討した結果、ウシ-クジラ異種間体細胞核移植胚の作出において、体外培養時にドナー細胞と同種の血清添加が再構築胚の発生を促進する効果を有する可能性が考えられた。 また再構築胚の活性化処理方法としてIMおよびDMAPの有効性が示唆された。 一方、除核方法におけるデメコルチン処理は染色体を細胞膜へ突出させる効果はあったものの、その後の発生に有意な改善は見られなかった。 しかし本研究においてクジラ遺伝子を有すると考えられる胚盤胞の体外生産に初めて成功した。 この技術によりミンククジラのみならず、鯨類全般の遺伝資源の保存、あるいは希少種の保護増産に応用できる可能性が考えられた。

(a.5.4) クロミンククジラ精巣の分化に関する免疫組織化学的研究(佐々木基樹(帯畜大)、福井豊(帯畜大)、手塚雅文(帯畜大)、石川創、茂越敏弘)

帯広畜産大学との共同研究で、クロミンククジラ及び他鯨類の繁殖生理に関する研究の一環としてクロミンククジラ精巣の機能および細胞骨格に関連するタンパク質の存在と分布を免疫化学的に検討した。
JARPAによって捕獲されたオス個体から精巣を採集し、精巣内のcytoskeletal protein、inhibin α-subunit、EGF、P450scc、leptin receptorの存在と分布をABC法を用いた酵素抗体法によって調べた。 その結果、精細管の構築にはdesminが最初に関与し、その後、筋様細胞のdesminおよびα-actinが徐々に発達することで精細胞の分化、発達が起こることが示唆された。 クロミンククジラ精巣では、inhibinとEGFはライディッヒ細胞によって生産されており、ステロイド合成はライディッヒ細胞と生殖細胞によって行われていると考えられた。 また精巣の発達に伴って生殖細胞のステロイド合成が促進すると考えられた。 さらにleptin receptorがライディッヒ細胞と生殖細胞に顕著に認められたことはleptinのこれら細胞への機能的な関与が推察された。 これらの研究結果は第8回日本野生動物医学会にて発表された。

(a.5.5) クロミンククジラ胎児精巣の細胞骨格タンパク質の免疫組織化学的分布(佐々木基樹(帯畜大)、福井豊(帯畜大)、手塚雅文(帯畜大)、石川創、茂越敏弘)

 帯広畜産大学との共同研究で、クロミンククジラ及び他鯨類の繁殖生理に関する研究の一環としてクロミンククジラ胎児精巣の機能および細胞骨格に関連するタンパク質の存在と分布を免疫化学的に検討した。 JARPAによって捕獲された雌妊娠個体の胎児個体から精巣を採集し、精巣内の細胞骨格タンパク質の存在と分布を免疫組織化学的に確認し比較検討した。 その結果、デスミンはビメンチンと異なり、胎齢130日ごろからセルトリ細胞より徐々に消失していくと推察された。 さらに精細管の構築にはデスミンが最初に関与し、その後、精細管周囲の筋様細胞のデスミンおよびα-アクチンが徐々に発達することで胎生期の精細管分化が起こることが示唆された。 これらの研究結果は第132回日本獣医学会にて発表された。

(a.5.6) クロミンククジラの卵巣の保存方法による免疫染色の抗原性保持についての検討(山口高弘(東北大)、高橋裕子(東北大)、銭谷亮子)

 クロミンククジラの卵巣を用いた黄体の退行機序の解明を行うため、まず、JARPAで採集され、冷凍保存されているクロミンククジラの卵巣が組織学及び免疫組織化学の材料として適しているかどうかの検討を行った。 その結果、解凍後ホルマリン保存された卵巣や冷凍保存された卵巣は組織学及び免疫組織化学の材料として適していないことが明らかになった。


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