・発見された鯨類は、ヒゲクジラ亜目6種及びハクジラ亜目6種であった。発見群数を見ると、クロミンククジラ(1,974群4,884頭)が優占種で、ザトウクジラ(418群735頭)、ナガスクジラ(122群491頭)がこれに次いでいた。
・今次調査のV区南部東側海域(南緯69度以南のロス海)は、例年に無く大きく開氷域が広がっていた。クロミンククジラは、調査海域全体に広く分布し、第VI区西側とロス海においてそれぞれ高密度海域が観察された(図2)。特にロス海におけるクロミンククジラの遭遇率(100海里あたりに遭遇した群数)は32.2、平均群れサイズ(1群あたりの平均頭数)は3.0であり、過去2回の調査を上回った。
図2. 2008/09JARPAIIにおける目視専門船によるクロミンククジラの発見位置

・目視採集船は、妨害による一部の未調査海域を除き、調査海域全体からクロミンククジラ679頭を捕獲した(V区西側:144頭、V区東側:240頭、VI区西側:295頭)。成熟率は、雄が78%、雌が66%であり、成熟雌に占める妊娠個体の割合は96%と例年同様に高かった。
・ロス海周辺においても、クロミンククジラの性と成長による棲み分けが観察された。VI区西側海域では、成熟雄が卓越し、一方、ロス海の特に南側では成熟雌が卓越していた。(図3)。
図3. 2008/09JARPAIIで目視採集船が捕獲した雌雄・成熟度別クロミンククジラの発見位置

・採集されたクロミンククジラのうち、双胎が3例観察され、うち1例は体の一部が結合している双胎であった。同様の双胎については、1981年1月(64-35S, 81-05E)にも観察されている(Zinchenko and Ivashin, 1987)。
・今次調査では、クロミンククジラの未成熟個体(体長範囲5.0m〜8.7m)を186個体採集したが、これらの胃内容物からミルクは観察されなかった。また、目視調査においても、親子と思われるクロミンククジラの群れは観察されていないことから、乳児個体が本調査海域にまで来遊していないことが強く示唆された。
・本調査海域では、これまでのJARPAの解析から、クロミンククジラの2つの系群が来遊していることが明らかになっているが、その境界については必ずしも明らかになっていない。今回得られた標本を含みJARPAUで得られた標本の解析から、これらの系群の境界やその経年的な変化などが明らかにされ、系群構造の解明が一層発展することが期待されている。
・ナガスクジラおよびザトウクジラは、北部海域で密度が高く、その密度は、クロミンククジラのそれとほとんど違いは見られなかった(図4)。
・ナガスクジラは、ロス海を除く調査海域に広く分布しており(122群491頭)、特にV区西側で1群55頭、V区東側では1群25頭と1群35頭の大きな群れを観察した。V区西側において、体長:14.8メートル、体重22.3トンの未成熟雌を捕獲した。この個体の胃内容物は、オキアミ類約300キログラムであった。
図4. 2008/09JARPAIIの目視専門船によるシロナガスクジラ、ナガスクジラ、イワシクジラ、ザトウクジラの発見位置

・ザトウクジラは、政府の指示により、今次調査においても捕獲を見合わせた。本種は合計418群735頭が発見され、南緯70度以北の調査海域に広く分布していたが、特に、V区西側で高密度に分布していた。ロス海での発見は限られていた。過去の調査結果と同様に、今次調査でも本種資源の順調な回復傾向が示された(密度指数は2004/05年度の約1.6倍)。今後はナガスクジラと共にザトウクジラとクロミンククジラとの間の餌をめぐる関係や分布の変化要因を調査していくことで、鯨類の資源動態の変動メカニズムを明らかにすることが可能となる。
・シロナガスクジラ(15群30頭)は、ほとんどの発見がロス海に集中した。
・マッコウクジラはロス海北側(南限は南緯72度)を含む調査海域に広く分布していた(77群91頭)。特に、V区東側のパックアイス付近で1群14頭(全て大型の個体)を観察したが、本種は成熟雄(単独群)のみが南極海に来遊するとの従来からの知見からすれば、この南極海における成熟雄同士の大きな群れは、貴重な観察結果である。
・シャチ(41群835頭)は、調査海域全体に広く分布し、特に南緯69度以南では高密度に分布しており、本種にとってロス海が重要な索餌場であると考えられた。
・シャチは、体長が異なる通常型(広食性)と矮小型(魚食性)が分布することが報告されている。近年、通常型(Aタイプ)、矮小型(Bタイプ、Cタイプ)にタイプ分けがなされているが、今次調査の観察では、南極海におけるタイプは、矮小型が卓越していた。
図5. 2008/09JARPAIIの目視専門船によるマッコウクジラ、ミナミトックリクジラ、ミナミツチクジラ、シャチの発見位置

・なお、生態系調査の一環として、目視調査中において、鰭脚類とペンギン類の観察と記録を行った。鰭脚類では、ミナミゾウアザラシ5群6頭、カニクイアザラシ9群18頭、ヒョウアザラシ1群1頭を確認した他、ペンギン類ではコウテイペンギン5群5羽、アデリーペンギン16群191羽、ヒゲペンギン2群8羽の他、種不明ペンギン3群64羽を確認した。
・目視調査、海洋観測調査、餌生物調査等の結果は、捕獲した鯨体からの各種分析用標本とともに、南極海の鯨類資源や南極海生態系の継続的なモニタリングに貴重なデータをもたらした。餌生物調査では、計量魚探及びネットサンプリングを実施しており、捕獲調査によって採集した鯨体の胃内容物と餌生物の組成や大きさを比較することで、クジラが利用している餌生物が生態系の中でどのような役割を果たしているのかを今後明らかにしていくことが期待される。また、餌生物調査で推定したオキアミなどの資源量と捕獲したクジラの胃内容物重量などを比較することで、クジラが南極海生態系にどのくらいの捕食インパクトを与えているかを推定することが可能になるなど、将来的な予測も含んだ南極海生態系の研究を行う上で、今回得られたデータが大きく貢献することが期待される。
・捕獲されたすべての鯨から、数多くのデータや標本が得られた(表1)。これらの調査記録、データ及び採集標本は、今後様々な分野の研究担当者に引き渡されて分析及び解析が行われ、その成果はIWCや各分野の学会などで公表される。
表1. 2008/09JARPAIIにおけるクロミンククジラとナガスクジラの生物調査項目要約
