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2011年度第二期北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPNII)

−日新丸調査船団による沖合域調査航海を終えて−


平成23年9月15日
財団法人 日本鯨類研究所


(1) 経緯

当研究所は日本政府からの許可を受けて、1994年から1999年までミンククジラの系群情報の収集を主目的とした北西太平洋鯨類捕獲調査(JARPN)を実施しました。この調査結果とIWC/SCでの議論から、鯨類を含む水産資源の包括的管理のためには、鯨類及びその餌生物を含めた総合的な調査が必要であることが認識されました。そして、JARPNを発展させた第二期調査(JARPNII:通称 ジャルパン・ツー)が計画され、2000年から実施しています。

このJARPNIIの最優先課題は、鯨類が消費する餌生物の種類や量、鯨類の餌生物に対する嗜好性などを調べて鯨類の摂餌生態を解明するとともに、それらの相互関係を基にした生態系モデルの構築を進めて、鯨類を含む日本周辺の水産資源の包括的管理に貢献することにあります。

そのため、捕獲調査対象鯨種を、ミンククジラ(体長8m、資源量25,000頭)、ミンククジラより大型で総生物量も大きく、その捕食量が生態系に与える影響が大きいと推定されるニタリクジラ(体長13m、資源量25,000頭)やマッコウクジラ(体長雄15m・雌11m、資源量102,000頭)、更にミンククジラの資源量を超えるまでに回復してきていることが最近明らかになったイワシクジラ(体長14m、資源量28,500頭(東太平洋を含まず))としました。また、鯨類が利用している餌生物の分布や存在量を推定するため、計量魚探や中層トロールを装備した餌環境調査船を用いて、鯨の捕獲調査と併行して餌環境調査を行っております。

JARPNIIでは、こうした鯨類の摂餌生態調査の他に、鯨類や海洋生態系への化学汚染物資の影響の把握や、各鯨種の資源構造の解明にも引き続き取り組んでいます。

今回入港した日新丸船団は、JARPNII計画の下で実施されている沖合域調査を担当していますが、この他、沿岸域の捕獲調査(今年度は、東日本大震災の影響で春季および秋季ともに釧路沖)を小型捕鯨船が担当しています。

我が国が実施している捕獲調査は、国際捕鯨取締条約(ICRW)の第8条(別記参照)によって締約国の権利として認められている正当な科学調査です。また、漁業資源の適切な管理の実現に向けた鯨類調査の実施の必要性は、国際連合食糧農業機関(FAO)の水産委員会でも強く支持されています。

なお、これまでにJARPNIIで収集されたデータおよび標本に基づく調査・研究の結果については、2009年1月にIWCが主催して横浜で開催された専門家グループによる評価会議において審議され、高い評価を受けました。その報告書は、2009年6月に開催されたIWCの科学委員会において報告されています。今次調査でも、それらの議論を踏まえた調査の改善を可能な限り取り入れて、実施しています。


(2) 調査計画概要


JARPNIIは、国際捕鯨取締条約に基づいて当研究所が政府の許可を受けて実施しており、2000年より2年間の予備調査を経て、2002年より本格調査を実施しています。本年調査計画の概要は以下のとおりです。

1. 調査目的:

(1) 鯨類の摂餌生態、生態系における役割の解明

(2) 鯨類及び海洋生態系における海洋汚染の影響の把握

(3) 鯨類の系群構造の解明

2. 調査海域

北緯35度以北、日本沿岸から東経170度までの北西太平洋(7、8、及び9海区)の一部海域

調査海域図
図1.今次調査の調査海域
3. 標本採集の予定頭数

本調査における予定された標本数は、昨年と同様で次の通りです。

ミンククジラ  100頭
イワシクジラ  100頭
ニタリクジラ   50頭
マッコウクジラ  10頭

4. 調査結果概要

本年度の沖合域調査は、梅雨前線の停滞に伴う天候不良や調査終盤の8月には、長期間にわたり濃霧などの天候不順に悩まされ、更に7月および8月には台風8号と10号が調査海域を通過したため、例年以上に悪条件の中で調査を強いられました。また、東日本大震災によって流出した漁船などの海上漂流物の影響で、特に夜間の移動が大幅に制限を受けることになりました。このため、イワシクジラ、ミンククジラおよびマッコウクジラについては予定していた標本数を採集することが出来ませんでした(ニタリクジラについては計画通りの捕獲調査を行うことが出来ました)。

しかしながら、今年の調査では、以下のような興味深い鯨類の摂餌生態に関する情報を得ることが出来ました。


(1) ミンククジラは、これまでの調査から、日本沿岸から沖合にかけて広く分布し、海域や時期によって餌生物種を変え、沖合域では初夏(5〜6月)にカタクチイワシを、盛夏(7〜9月)にサンマを捕食し、沿岸域ではオキアミやイカナゴ、カタクチイワシ、サンマ、スケトウダラ、スルメイカなど幅広い餌種を利用していることが明らかになってきました。
今年度の調査においては、発見は調査海域の沿岸部に集中しており、八戸沖ではカタクチイワシ、釧路沖ではスケトウダラを主に捕食しており、従来の情報と一致する結果が得られました。今後も引き続き、春と秋に行われている沿岸調査の結果と併せて、ミンククジラの摂餌生態を解明していく予定です。

(2) イワシクジラは、三陸沖から東経170度までの調査海域に広く分布して、カイアシ類やオキアミ類などの動物プランクトンから、サンマやカタクチイワシなどの魚類まで、広範な餌生物種を利用していることが、これまでのJARPNII調査から明らかになってきました。
今年度の調査においても、イワシクジラは特に沖合域に広く分布し、カイアシ類やオキアミ類などの動物プランクトンから、カタクチイワシなどの魚類まで、広範な餌生物種を利用していることが確認できました。特に、6月には本種を主対象にした餌環境調査船との共同調査を実施しており、得られた情報から本種の分布とその餌生物や海洋環境との関連について明らかになることが期待されます。残念ながら8月には濃霧等の悪天候のため、目視調査および標本の収集が予定通り出来ず、採集標本数は95頭に終わりました。

(3) ニタリクジラは、夏季に北緯40度以南に広く分布して、主にオキアミ、カタクチイワシ及びヤベウキエソを捕食し、分布にも年変動のあることが、これまでのJARPNII調査から明らかになってきました。
今年度の調査では、7月末から8月にかけてオキアミ類を中心に捕食しており(例年はカタクチイワシ)、餌生物が例年とは異なる傾向が認められました。今までの餌生物情報と今回得られた情報から、本種の餌生物の年変化の要因について明らかにする予定です。

(4) マッコウクジラは、7MO区北側(三陸沖)の海域で採集しました。主要餌生物は、深海性のイカ類でした。今後胃内容物の詳細な解析を行って、本種と表層生態系との関係について明らかにしていく予定にしております。

(5) JARPNII調査は、鯨類の捕獲調査に加えて、鯨類の餌環境調査も併せて実施しています。今年度も、独立行政法人水産総合研究センター所属の北光丸が餌環境調査船として参加し、日新丸船団と合同で6月に約2週間にわたり、計量魚探とトロールやプランクトンネットによる餌環境調査を実施しました。その結果、特にイワシクジラの分布とその餌生物や海洋環境についての多くの情報を得ることが出来ました。今後詳細な解析を行って、イワシクジラの分布特性並びに摂餌生態を明らかにしていく予定です。



(参考)
国際捕鯨取締条約第8条抜粋

1.この条約の規定にかかわらず、締約政府は、同政府が適当と認める数の制限及び他の条件に従って自国民のいずれかが科学的研究のために鯨を捕獲し、殺し、及び処理することを認可する特別許可書をこれに与えることができる。
2.前記の特別許可書に基づいて捕獲した鯨は、実行可能な限り加工し、また、取得金は、許可を与えた政府の発給した指令書に従って処分しなければならない。




2011年JARPNII沖合域鯨類捕獲調査の結果概要

1.期間

航海期間:  平成23年6月11日(出港)〜平成23年9月05日(入港) 87日間
調査期間:  平成23年6月16日(開始)〜平成23年8月30日(終了) 76日間
* 第三勇新丸は目視専門船として、5月13日から6月6日の25日間航海して 調査活動に従事した。
* 独立行政法人水産総合研究センター所属の北光丸は、6月13日から6月28日の 15日間調査活動に従事した。

2.船団構成

1)調査員
調査団長 田村 力((財)日本鯨類研究所 研究部 生態系研究室室長)
日本鯨類研究所より 田村 力 他5名
遠洋水産研究所より 渡邊 光 他6名

2)調査船と乗組員数(含む調査員)
調査母船 日 新 丸 ( 8,044トン  江口 浩司 船長以下116名)
目視採集船 勇 新 丸 (  720トン  佐々木 安昭 船長以下21名)
目視採集船 第二勇新丸 (  747トン  三浦 敏行 船長以下21名)
目視採集船 第三勇新丸 (  742トン  小宮 博幸 船長以下19名)
餌環境調査船 北 光 丸 ( 1,246トン  戸石 清二 船長以下31名)

3.総探索距離

5,155.6浬 (目視採集船2隻の合計)
1,101.5浬 (目視専門船)

4.主たる鯨類の発見数

(日新丸調査船団の一次及び二次発見の合計)
ミンククジラ 52群53頭
イワシクジラ 198群476頭
ニタリクジラ 122群149頭
マッコウクジラ 181群295頭
シロナガスクジラ   7群  8頭
ナガスクジラ  52群 66頭
ザトウクジラ  11群 15頭

(目視専門船の一次及び二次発見の合計)
ミンククジラ  1群    1頭
イワシクジラ  3群    6頭
ニタリクジラ  3群    6頭
マッコウクジラ 28群   53頭
シロナガスクジラ  3群    3頭
ナガスクジラ  7群    8頭
ザトウクジラ 14群   16頭
セミクジラ  2群    3頭

5.標本採集頭数

ミンククジラ  49頭
イワシクジラ  95頭
ニタリクジラ  50頭
マッコウクジラ   1頭

6.実施機関

財団法人 日本鯨類研究所
独立行政法人 水産総合研究センター 遠洋水産研究所

発見位置

図2.2011JARPNIIで採集したミンククジラ、イワシクジラ、ニタリクジラ及びマッコウクジラの発見時の位置
:ミンククジラ、:イワシクジラ、:ニタリクジラ、:マッコウクジラ)。


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