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最近放映されたドキュメント番組「凍りの海 揺れる調査捕鯨」の一部内容について


平成26年8月12日
日本捕鯨協会
共同船舶株式会社
一般財団法人 日本鯨類研究所


  標記ドキュメント番組における取材相手の発言及び番組内容の一部に、事実と異なる認識あるいは根拠のない個人的見解にもとづく箇所がありましたので、これを指摘させていただくとともに、当方の見解を述べさせていただきます。鯨類捕獲調査(調査捕鯨)を正しく理解する一助になれば幸いに存じます。


1.第二期南極海鯨類捕獲調査の採集標本数(捕獲頭数)が、計画を下回る結果に陥った原因について

  番組の中で、取材相手の一人の小松正之(以下「K」)氏は、第二期南極海鯨類捕獲調査(以下「JARPAII」)が『(標本数の)850頭を獲ってくるのをやめて500頭とか100頭、200頭になってきている』、『そういう数量を獲ってきて、ある分を売りましょうという形に変更した』と批判しています。つまり、調査が目標の標本数を達成しないのは、国内で流通する鯨肉の在庫調整によるものと主張しています。また、『(国際司法裁判所(以下「ICJ」)で)否定されたのではなくて、自ら科学を探究しなくなったんだ』、『科学と称しながら、科学的な情報を全然とらないでいた』とも発言しています。しかしながら、以下に説明するように、これらの主張はまったくの誤解▪曲解です。


「捕獲頭数の減少は調査副産物の生産調整の結果」か?

  南極海での調査妨害は、1987/88年に第一期南極海鯨類捕獲調査(以下「JARPA」)を開始してから、毎年繰り返されてきました。第一期調査ではグリーンピース・インターナショナル(以下「GP」)が主に妨害活動を行っていましたが、2005/06年から始まったJARPAIIでは、シーシェパード・コンサベーション・ソサエティ(以下「SSCS」)がとってかわるようになりました(1)。この団体は、ノルウェーやアイスランドの捕鯨船を沈め、JARPAIIにおいても調査船や給油船へ故意に衝突する等の一歩間違うと人命にかかわる事故や大惨事になりかねない過激な行為を平然と行っています(2)。さらに、妨害行為をTVやHPで宣伝することで資金集めを行っているため、年々妨害の度合いを強めてきました。このためJARPAIIの調査船は、妨害船を避けて安全な調査活動ができるようにと長い時間をかけた移動(妨害船からの回避行動)を余儀なくされて、計画通りの調査活動に従事することが年々難しくなりました(3)。実際、2013/14年度の南極海調査では、調査海域滞在期間70日のうち18日が回避行動に費やされてしまい、調査実施に大きな影響が出ました。
  また、K氏の主張するように在庫調整の意図があるのであれば、北西太平洋の調査(以下「JARPNII」)でも標本数を大幅に減らして副産物の生産調整をするはずです。しかしながら、副産物の量は、調査妨害のある南極海においてのみ大幅な減少となっており、日本政府による取締りが可能なためSSCSが調査妨害を行うことが出来ない北西太平洋では安定的な調査を実施してきていることから、彼の主張には論理的な整合性がありません。


「科学を探究しないで科学的な情報をとらなくなった」のか?

  上述したように、SSCSの妨害で目標の標本数を達成出来なくなってしまいましたが、採集することが出来た標本を基に、毎年、国際捕鯨委員会の科学委員会で継続的に多数の調査結果を発表しています。今年の2月にはJARPAIIの成果のレビュー会合が開催されましたが、捕獲数が妨害により著しく制限されたにもかかわらず、レビューパネルは『JARPA及びJARPAII計画によって得られた情報が、調査海域内での系群構造に関する我々の理解をかなり深めたことに合意する』、『(JARPA及びJARPAIIで得られたデータを基に)提出された最新のSCAA解析(統計学的な捕獲時の年齢解析)を歓迎する。SCAAモデルはJARPAII海域のクロミンククジラの系群別資源動態を研究するのに、現時点で入手可能な最善のモデルであるとともに、この点からモデルの性能がよいことに合意する』、『JARPA及びJARPAIIで得られた、特に系群構造及び資源量に関する情報は、将来のRMPの適用試験をかなり向上させることに合意する』といった科学的に高い評価を下しました。その一方で、レビューパネルの報告書(4)には『反捕鯨団体の外的な干渉及び妨害行為により、JARPAIIでは一部調査海域が網羅できなかったことを留意しなければならない』、『JARPAIIのサンプリングに関し、標本数の欠損と調査方法の変更は、南極海での妨害によるものである』と記されています。なお、このレビュー会合の報告がICJの審議に間に合わず、JARPAIIの科学的正当性を示す重要な証拠として使われなかったことを残念に思います。


  以上に説明しましたように、本番組内の「捕獲数の減少が在庫調整のため」とのK氏の発言には何ら根拠がなく、もっぱらK氏の誤解、曲解及び思い込みによるものであることに相違なく、鯨類専門の研究所として鯨類資源の保存と管理並びに商業捕鯨の再開に向けて鯨類捕獲調査に真面目に取り組んでいる日本鯨類研究所としては、到底受け入れることはできません。


2.「外圧から日本の捕鯨を守れの主張は、捕鯨協会が仕掛けた宣伝戦略」か?

  四面を海に囲まれた日本列島に住みついた我々の祖先が、大昔から海岸に座礁した鯨を利用し、技術の発達とともに積極的に捕獲を試みるようになったのは、当然の成り行きと思われます。古事記や万葉集にも鯨や捕鯨のことが登場しますが、室町時代後期の1489年に出版された「四條流庖丁書」という料理の本には、『鯨は鯉や鯛よりも美味しいので入手した時は一番先に出すのが作法』と記述されています。当時既に鯨肉が、公家や武士社会の宴席で供される食材として認識されていたことが判ります。江戸時代に入ると日本独自の網捕り式という新しい捕鯨技術が開発され、鯨の捕獲も増加し、一般の市民も鯨を食べるようになりました。捕鯨場から離れていた江戸でも12月のスス払いの終了後に鯨汁を食べる習慣があったことが当時の川柳で判ります。生産量、保存法、物流等の面で限界があったことから、日本各地における鯨肉の嗜好には濃淡がありますが、ハレの日に鯨料理が欠かせないというような風習は、北海道から九州に至るまで全国広範囲で残っております。また、各地で捕鯨が盛んに行われ始めてから、その供養のために鯨の供養塔や墓が建てられ、現在も捕鯨にちなんだ祭りが各地で行なわれています。なお、南氷洋捕鯨は昭和9年に開始され、昭和14年には初めて冷凍鯨肉を生産するための冷凍船が南氷洋に派遣されました(5)。同年、合計で45,000トンの鯨製品が生産され、内39,000トンが国内に供給されました。この供給量は、当時の国民一人あたりの肉類供給でその17%を占めていました(6)。 
  先の終戦後の食料不足を解消させるために、GHQが一早く捕鯨を再興させた結果、急速に全国に鯨肉が普及し、国民食となりました。これを可能としたのは、戦前から鯨肉がすでに廉価な動物タンパク源(7)として全国規模で認知され、その素地があったためと考えられます。一方、戦後の食料難に苦しんだイギリスでも同様の試みが行われましたが、それまで鯨肉が広く国民に認知されていなかったためか(8)、その普及は失敗に終わっています(9)
  したがって、我が国には鯨食文化が古来より存在していたことは明らかであって、日本捕鯨協会が「外圧から日本の捕鯨を守る」ため鯨食文化を作り上げたとの説は、根拠のない誤った主張であることがお判りいただけることと思います。



  • (1)  SSCSはGP創設者のひとりであるポール・ワトソンが中心となり、GPよりもより過激な抗議活動をすることを公言してGPから分かれた団体です。
  • (2)  詳細は、日本鯨類研究所HP参照( http://www.icrwhale.org/gpandseaJapane.html
  • (3)  例えば2010/11年調査ではSSの妨害行為が激しく、調査継続が困難であるとして、農林水産大臣が調査の中止の指示を発する事態となり、採集標本数の減少になりました。
  • (4)  『日本のJARPAII特別許可調査プログラムを評価するための専門家ワークショップの報告書(仮訳)』参照。http://www.icrwhale.org/pdf/SC-65b-Rep02Jpn.pdf
  • (5)  『日本水産50年史』、『日本水産100年史』
  • (6)  『捕鯨業と日本国民経済との関連に関する考察』
  • (7)  庶民にも手の届く価格であった。『鯨料理の文化史』、
  • (8)  イギリスでも鯨肉は15-16世紀には王室のレセプション等に用いられ、ごちそうと考えられていました。
         “A Whale of a Dish: Whale meat as Food” in Disappearing Foods.
  • (9)  British Wartime Food. http://www.cooksinfo.com/british-wartime-food

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