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2015/16年度新南極海鯨類科学調査(NEWREP-A)の結果について


2016年3月24日
一般財団法人 日本鯨類研究所


はじめに


本調査は、2014年3月の国際司法裁判所(ICJ)の判決を踏まえて策定され、国際捕鯨委員会科学委員会(以下、IWC/SC)によるレビューを経て最終化された、新南極海鯨類科学調査計画(NEWREP-A)に基づく第一回目の調査であり、一般財団法人日本鯨類研究所が農林水産大臣から許可を受けて実施した。 昨年12月1日より115日間にわたり4隻の調査船を用いて、鯨類の目視情報をはじめ、クロミンククジラ(Antarctic minke whale, Balaenoptera bonaerensis)の生物学的情報、その餌生物であるナンキョクオキアミの資源量および海洋環境情報収集の調査航海を行った。 今回の調査では、昨年度の目視調査で未調査海域となっていた南極海第IV区の一部において、鯨類目視調査を行ったほか、新たな試みとして、非致死調査の実行可能性・有用性を検証するため、クロミンククジラからのバイオプシー標本(皮膚の生検標本)採集および同種への衛星標識装着実験を実施し、併せて簡易餌生物資源量調査として計量科学魚群探知機による観測・ネットサンプリング・採水を含む海洋観測を実施した。 また、第V区ではランダムサンプリングによるクロミンククジラの捕獲調査を実施した。

調査海域図
図1.2015/16年度新南極海鯨類科学調査における調査海域(青色塗りつぶし)
AreaIV:鯨類目視調査海域(IWC/SCヒゲクジラ管理海区第IV区)
AreaV:捕獲調査海域(IWC/SCヒゲクジラ管理海区第V区)

調査結果の概要


調査名称

2015/16年度 新南極海鯨類科学調査(ニューレップ・エイ)
英名:NEWREP-A(New Scientific Whale Research Program in the Antarctic Ocean)


目的

1. RMP(改訂管理方式)を適用したクロミンククジラの捕獲枠算出のための生物学的及び生態学的情報の高精度化
2. 生態系モデルの構築を通じた南極海生態系の構造及び動態の研究


期間

航海日数 115日間(2015年12月1日から2016年3月24日)
調査日数 65日間(2015年12月23日から2016年2月25日)


調査海域

南緯60度から南極大陸、東経115度から西経170度に囲まれたロス海を含む海域
(図1:IWC/SCにおけるヒゲクジラ管理海区第IV区の一部および第V区)


実施主体および調査員

実施主体 一般財団法人日本鯨類研究所
調査員  調査団長 松岡耕二(同調査研究部次長)ほか11名


調査船および乗組員

調査母船  日新丸(8,145トン 江口浩司船長、ほか101名)
目視採集船 勇新丸(724トン 佐々木安昭船長、ほか19名)
目視採集船 第二勇新丸(747トン 阿部敦男船長、ほか19名)
目視専門船 第三勇新丸(742トン 大越親正船長、ほか21名)


調査手法

ライントランセクト法による鯨類目視調査(資源量推定のための目視調査、距離角度推定実験、自然標識撮影、バイオプシー標本採集、クロミンククジラ衛星標識装着実験、クロミンククジラバイオプシー実行可能性検証実験)、発見されたクロミンククジラのランダムサンプリングによる捕獲調査(生物学情報の収集)および簡易オキアミ資源量調査(計量科学魚群探知機による観測、ネットサンプリング)ならびに海洋観測調査(CTD、採水器による採水、海洋漂流物観察)。


結果

上記の調査手法により、クロミンククジラを中心とした南極海鯨類の資源動態推定のための鯨類目視情報、クロミンククジラの生物学的情報、オキアミ資源量情報、海洋観測情報等を収集した。 調査船による総探索距離5,272海里(目視専門船および目視採集船の合計:約9,763km)の鯨類目視調査では、シロナガスクジラやナガスクジラをはじめとしたヒゲクジラ亜目6種およびマッコウクジラやシャチなどのハクジラ亜目5種を発見した(表1)。 最も発見頭数の多かった種はクロミンククジラ(560群1,563頭)であり、次いでザトウクジラ(668群1,452頭)、シャチ(29群259頭)の順で多かった。 これらの発見分布は調査海域内で違いが見られ、クロミンククジラは氷縁周辺およびロス海に集中しており、ザトウクジラは沖合域に広く分布していた。 ロス海ではクロミンククジラの発見が全発見群の94%を占めた。


表1.主な発見群頭数(往復航海の目視調査を含む)
発見群頭数

調査海域のうち、第V区(東経130度から西経170度の海域)においては2隻の目視採集船および調査母船により、捕獲したクロミンククジラ333頭(うち、オス103頭、メス230頭)から生物学的情報を収集した。 収集した生物情報は、主にクジラの年齢査定に必要な耳垢栓と水晶体、栄養状態の判定に必要な脂皮厚、および繁殖情報を得る生殖腺をはじめ、餌生物種の情報を得るための胃内容物やその他の分析用組織標本である。 得られた標本の平均体長は8.26m(うち、オス8.06m、メス8.35m)、平均体重6.64t(うち、オス6.11t、メス6.88t)であり、78.1%が成熟個体であった。 性成熟別にはメス成熟個体の平均体長が8.78mとオスよりも大きかった(表2)。 特にロス海では成熟メス個体が分布しており、そのうち90.5%は妊娠個体(うち、双胎2)であったことから、依然として本種の高い妊娠率とそれらの分布に偏りがあることが示された。 主要餌生物としてナンキョクオキアミ(204個体)およびコオリオキアミ(10個体)が認められた。


表2.クロミンククジラの生物情報
生物情報

また、鯨類目視調査では、距離角度推定実験において320回の誤差補正データを収集したほか、発見された鯨類への自然標識撮影実験、バイオプシー標本採集および衛星標識装着実験といった非致死調査も実施した。 そのうち、自然標識撮影実験では個体識別に使用する背鰭や特徴的な部位等の写真撮影を4種(シロナガスクジラ、ミナミセミクジラ、ザトウクジラおよびシャチ)、82個体で実施した。 バイオプシー標本の採集では5種(シロナガスクジラ、ナガスクジラ、ミナミセミクジラ、ザトウクジラおよびシャチ)、40個体から皮膚標本の採集を行った(表3)。


表3.自然標識撮影とバイオプシー実験結果
自然標識他

新たな試みとして実施したクロミンククジラを対象としたバイオプシー実行可能性検証実験では5個体から皮膚標本の採集に成功した。 加えてクジラの回遊経路を調べるため、クロミンククジラ16個体に対して衛星標識の装着実験を行った(表4)。 衛星標識装着個体の1頭から、約3週間におよぶクロミンククジラの位置情報受信に成功した。


表4.クロミンククジラバイオプシー実行可能性検証実験および衛星標識装着実験結果
バイオプシー他

餌生物資源量調査では、計量科学魚群探知機を使用したデータ観測により合計31日間、1,571海里のデータを収集し、オキアミ類などの種確認を目的としたネットサンプリングを32回実施した。 また29観測点においてCTD(水温・塩分濃度)および4観測点において採水器を用いた採水を実施して海洋環境データを収集した(表5)。


表5.餌生物資源量調査および海洋観測調査結果
海洋観測他

まとめ

(1) 今期の調査は、反捕鯨団体による妨害を受けることなく、あらたに拡充した非致死的調査の実験を含め、初年度に計画されたすべての調査項目を完了した。
(2) IV区では、IWCガイドラインに沿った目視調査方法により、昨年度、未調査海域となっていた海域をほぼカバーし、NEWREP-Aの目的に沿った、南極海における鯨類資源の動向や生態系モデル構築に関する重要なデータを収集することができた。
(3) 目視調査からは、IV区でのザトウクジラの資源量が急速に回復してきていることがあらためて確認され、一方で南緯66度以南の南極大陸に近い氷縁付近では、多数のクロミンククジラの高密度海域を発見し、同資源の頑健さもあらためて確認することができた。 また、東経128度付近ではシロナガスクジラの高密度海域を確認した。
(4) あらたな試みとして、非致死的調査の実行可能性・有用性を検証するため、クロミンククジラからのバイオプシー標本(皮膚の生検標本)採集実験や、回遊経路を調べるための同種への衛星標識装着実証実験を実施した。 特に衛星標識実験では7個体のクロミンククジラへ衛星標識を装着し、少なくともそのうちの1個体からは約3週間にわたる位置情報の受信に成功した。
(5) あらたな試みとして、簡易餌生物資源量調査としてオキアミ類の資源量把握を目的とした計量科学魚群探知機による観測・ネットサンプリングを実施し、併せてCTDによる水温、塩分濃度の観測や採水器による採水などの海洋観測を実施し、南極海における餌生物環境に関するデータを蓄積した。
(6) このほか、シロナガスクジラ、ザトウクジラ、ミナミセミクジラ、シャチからの自然標識撮影(注1)や、シロナガスクジラ、ナガスクジラ、ザトウクジラ、ミナミセミクジラ、シャチからのバイオプシー標本採取(注2)など、従来の非致死的調査も実施した。
(7) V区における致死的調査は、調査期間中を通して、北部海域での悪天候になやまされたが、後半の南部海域では天候に恵まれ、目標標本数であるクロミンククジラ333頭を採集することができた。 採集個体すべてに対して鯨体生物調査を実施して、年齢、繁殖状態および栄養状態に関する生物学的情報を収集した。 妨害により中断していたロス海全域の調査は、2008/09年度調査以来7年ぶりの完遂となった。
(8) 採集したクロミンククジラ333頭のうち雄は103頭、雌は230頭であった。 採集した個体のうち、雄は83.5%、雌は75.7%の割合で性成熟しており、成熟した雌の90.2%が妊娠していた。 雌の高い妊娠率は例年と同様であり、南極海におけるクロミンククジラ資源の繁殖状況が健全であることを示唆している。
(9) 今期調査で得られたデータ及び採集標本は、今後、国内外の研究機関との共同研究により分析及び解析が行われ、鯨類資源に関する研究の進展に寄与することが期待される。 また、研究成果は、国際捕鯨委員会や各分野の学会などで公表される予定である。


(注1)外見上の特徴(色、ひれの形状、傷跡等)により鯨の個体識別ができるようにするため、発見された鯨を撮影するもの。
(注2)DNA等を解析するため、鯨の表皮の一部を採取するもの。


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非致死的調査衛星標識装着実験
(クロミンククジラ)
非致死的調査バイオプシー標本の採集(ザトウクジラ) 非致死的調査(バイオプシー採集機材)
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餌生物調査風景
(ネットサンプリング)
餌生物調査による採集試料
(ナンキョクオキアミ)
海洋観測風景
(CTDによる海洋観測)
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海洋観測風景
(採水器による採水)
パックアイス内のクジラの群れ
(クロミンククジラ)
南極海における野生動物
(シロナガスクジラ)
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南極海における野生動物(ナガスクジラ) 非致死的調査自然標識撮影による外見上の特徴記録(ザトウクジラ) 非致死的調査自然標識撮影による外見上の特徴記録(ミナミセミクジラ)
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目視採集調査選択個体の採集
(クロミンククジラ)
鯨体生物調査プロポーション計測
(クロミンククジラ)
胃内容物ナンキョクオキアミ
(クロミンククジラ)
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胃内容物コオリオキアミ
(クロミンククジラ)
採集された年齢形質耳垢栓
(クロミンククジラ)
繁殖海域の情報を探るダルマザメ噛み痕
(クロミンククジラ)
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鯨体生物調査 脂皮厚計測(クロミンククジラ) 鯨体の特徴 背鰭(クロミンククジラ) 採集された生殖腺 卵巣と黄体
(クロミンククジラ)
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体表に付着した珪藻類(クロミンククジラ) 鯨体生物調査によって確認された腹部の珪藻類(クロミンククジラ) 回遊情報につながるクロミンククジラ体表の付着生物(フジツボ)
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南極海の氷山 調査母船日新丸(捕獲調査)

調査の動画は、当研究所Youtubeチャンネル(https://www.youtube.com/channel/UCXhtZYiYPNydsIie3YZuesA?spfreload=5)でご覧になれます。

・調査母船日新丸(2015/16年新南極海鯨類科学調査計画)
・調査母船日新丸 Part.2(2015/16年新南極海鯨類科学調査計画)
・クロミンククジラ衛星標識装着(2015/16年新南極海鯨類科学調査計画)
・シロナガスバイオプシー実験(2015/16年新南極海鯨類科学調査計画)
・シロナガスバイオプシー実験 Part.2(2015/16年新南極海鯨類科学調査計画)
・南極の風景 カニクイアザラシ(2015/16年新南極海鯨類科学調査計画)


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