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2012/13年第二期南極海鯨類捕獲調査(JARPAII)における調査妨害の概要について


平成25年4月5日
財団法人 日本鯨類研究所


1. はじめに

第二期南極海鯨類捕獲調査(JARPAII)は、国際捕鯨取締条約(ICRW)に基づき、日本政府の特別許可のもと、2005/06年から南極海において財団法人日本鯨類研究所が実施している調査事業である。

JARPAIIは国際条約で認められた合法的な調査活動であるにもかかわらず、今次(2012/13年)調査においてもシーシェパード・コンサベーション・ソサエティ−(以下「SS」と呼ぶ)から、調査船団の乗組員の生命と船舶の安全を脅かす妨害行為を受けた。

SSは、ポール・ワトソンを代表として米国に本部をおく環境テロリスト集団であり(注1)、今次は、4隻の妨害船、すなわち、スティーブ・アーウィン号(以下SI号:オランダ船籍)、ボブ・バーカー号(以下BB号:オランダ船籍)、サム・サイモン号(以下SmS号:豪州船籍)及びブリジット・バルドー号(以下BrB号:豪州船籍)が妨害した。

今次は、スクリューの破壊を目論んだ調査船の船首前方でのプロップファウラー(鉄パイプやワイヤー等を装着したロープ)やワイヤー、ロープの投下や調査船前方の横断航行など、調査船団の船舶の航行妨害や捕獲調査活動に対する妨害の他、さらに、タンカーのフェンダー(船と船の間に設置する、空気を充填したゴム製の緩衝材)を奪おうとしたり、ナイフによるフェンダーの破壊(パンク)、に加えて、調査船がタンカーから燃料の補給を受けるための横付け作業(注2)、妨害船が調査船及びタンカーへの体当たりをするなど、調査船及び乗組員の生命を脅かす危険で悪質な妨害行為を繰り返した。 特にタンカーへの体当たりなどの攻撃は、火災事故や海洋汚染など取り返しのつかない大災害にまで拡大しかねないような事故を誘引する大変危険な行為であり、法治国家で構成される国際社会はこのようなテロ集団の身勝手な行為を決して見過ごしてはならない。

今次は調査期間48日間のうち、延べ21日を妨害船による調査航行妨害や妨害船の回避行動に費やしたため、計画した調査海域内の調査の多くを実施することができず、SSが調査船団を離脱した後調査を再開し、3月14日に調査を終了して、帰航海に就いた。


注1.ポール・ワトソン (Paul Watson)は、環境保護団体グリーンピースを設立したメンバーの一人で、1977年にSSを分派した。 現在、我が国の鯨類捕獲調査事業に対して行った犯罪容疑などにより国際刑事警察機構(INTERPOL)から国際逮捕手配(赤手配)されている。 昨年、過去にコスタリカでおこした犯罪容疑による逮捕状に基づきドイツで逮捕されたが、保釈中に密出国して逃亡中。 今次の妨害行為でもSI号に乗船して、指揮をとっていたことをSSが発表している。
SSは、当方からの訴追を逃れるためか、2013年1月に、ポール・ワトソンがSSの代表を辞任し、また組織を分け、妨害行為を行っているのは豪州SSで、米国SSとは別団体であると発表している。
SSは環境保護団体を自称しているが、その過激な活動から米国連邦捜査局(FBI)は、2002年の議会報告で、彼らの活動から環境テロリズム(eco-terrorism)が広がったと述べている。 また、今年の2月25日、米国の第九巡回裁判所は、日本鯨類研究所と共同船舶が求めていたSSの妨害差止の仮処分を認める判断を下した際、SSの行為は「私的目的の暴力行為の明確な事例で、まさに海賊行為を具現化したものである」と意見(オピニオン)で述べている。

注2.SSは「南緯60度以南での燃料補給は違法である」と主張し自らの行為を正当化しているが、国際条約上、南極海で使用・運搬ができる燃油については一定の基準が定められており、補給船が運搬している燃油はこの基準を満たしているため、何ら国際条約に違反するものではない。 また、SS自身が南緯60度以南での燃料補給を行っており、自らの主張に反する行為を行っている。


2. 妨害への対策

これまでSSは調査船団に対して、プロペラを破壊するためのプロップファウラーの投入、ランチャー(高圧ガス銃)から酪酸やペンキ等を充填したガラス瓶の発射、調査船員の眼を狙った高出力レーザー光線の照射、信号用ロケット弾の水平発射、そして調査船内へ発火装置を投入するなど、妨害行為を過激化・執拗化させてきた。

このため日本鯨類研究所と共同船舶は、2011年12月に米国ワシントン州の連邦地方裁判所において、SSとポール・ワトソンを相手取って妨害の差し止め請求を起こすとともに仮処分の申し立てを行っていた。 同連邦地方裁判所は2012年3月にこの仮処分の申し立てを却下したため、これを不服として第九巡回区控訴裁判所に再審議の申し立てを行っていたが、2012年12月に同巡回区裁判所が仮処分命令を発出した。 仮処分の内容は、被告であるSSは、公海上を航行するJARPAIIに参加する調査船から500ヤード(約457メートル)以内に近づいてはならない。 また物理的攻撃を行うことやそれらの調査船の安全な航行を脅かすような方法で航行することを禁じるというものである。

今次の調査では、米国裁判所の仮処分命令の遵守をSSに求めるための警告メッセージの船外放送、抑止力としての水産庁監視船の派遣および海上保安庁警乗隊の乗船等の対策を行って、今次調査事業を実施することとした。


3. 今次調査における主な妨害の概要


以下、略語はNM:日新丸、YS1:勇新丸、YS2:第二勇新丸、YS3:第三勇新丸、SM2:第二昭南丸である。


1)2013年2月15日 BB号がNMとYS2の調査活動(渡鯨)を妨害

2月15日午後4時頃(日本時間)、YS2が捕獲した鯨体をNMの船上に引き揚げる作業(渡鯨)を行っていたところ、BB号がこれを妨害しようとNMへ異常接近を繰り返して衝突寸前の距離(約55メートル)まで接近した。 また、BB号から降下したゴムボート1艇がロープをYS2の船首直前に投入し、YS2のスクリューや舵の機能停止を狙う妨害行為を行った。 これに対し、NMとYS2は妨害行為を止めるよう放水及び音声による警告を繰り返し行った。 また、船体の安全を確保するため、船尾から接近警告用のブイを曳航してSS船に対して警告したが、SSボートの活動家によって切断された。 YS2は渡鯨作業を繰り返し試み、2時間以上の時間を費やしてようやく渡鯨を完了した。


2)2013年2月20日 SI号、BB号、SmS号がNMとタンカーの接舷を妨害

2月20日、NMは海氷の散在する域でタンカーとの横付け(接舷)を試みた。 NMはSSに対して、これよりタンカーと接舷作業を行う、危険なので接近しないようにとの警告を繰り返し、作業を開始した。 しかしながら、SSの妨害船3隻(SI号、BB号、SmS号)はこれを無視して調査船への異常接近を繰り返し、NMとタンカーの接舷作業を妨害した。
SI号とSmS号は、NMとタンカーの間に割り込み、NMの船体に接触し、BB号はその後、タンカーに体当たりした(写真1)。 NMがタンカーの舷側に入って行く段階において、BB号はNMの針路を遮る形でタンカーの左舷に船首を衝突させ立ちはだかった(写真2)。 NMは船体船首部における船体のへこみ、ハンドレール破損、補給船は左舷側の船体のへこみ、ハンドレールの破損などがあったが、船体の航行能力に被害はなかった。


3) 2013年2月25日 SI号、BB号、SmS号がNMとタンカーの接舷を妨害

2月25日、NMは 燃料補給を受けるため、再度タンカーと接舷を試みた。 NMとタンカーは並走しながら互いの距離を徐々に縮めていったところ、その間にBB号が割り込み、12時48分(日本時間)NMの右舷に体当たりした(写真3および4)。 BB号はその直後、タンカー左舷にも体当たりした。 NMは左舷側に回避を試みていたところ、右舷後方から急接近したSmS号がNM右舷船首付近に体当たりした。
NMとタンカーはSSに対して音声などで繰り返し警告を行ったが、意図的な体当たりを躊躇せずに行うSS船の妨害行為によって、接舷作業を強行することは困難と判断し、調査船及び乗組員の安全を確保するため接舷を中止した。
その後、調査船団は目視調査を開始したが、BB号から発進したゴムボートが、ワイヤー付きのロープを曳航しながらYS1の船首を横切るなどの航行妨害を行ったため、目視調査も中断することとなった(写真5)。 また、SI号から発進したボートの活動家は、NM船体横にある排水口を塞ごうとして異物を取り付けた(写真6)。


4. その他


今次調査は、上述したように、日本鯨類研究所と共同船舶は、2011年12月に米国ワシントン州の連邦地方裁判所において、SSとポール・ワトソンを相手取って妨害の差し止め請求を起こすとともに仮処分の申し立てを行ったが、同地方裁判所は2011年3月にこの仮処分の申し立てを却下した。 我々はこれを不服として第九巡回区控訴裁判所に再審議の申し立てを行い、2012年12月に同巡回区裁判所は、仮処分命令を発出した。 仮処分の内容は、被告であるSSは、公海上を航行するJARPAIIに参加する調査船から500ヤード(約457メートル)以内に近づいてはならない。 また物理的攻撃を行うことやそれらの調査船の安全な航行を脅かすような方法で航行することを禁じるというものである。

また、同巡回区裁判所は、2013年2月25日に、先の連邦地方裁判所が下した裁定を破棄し、誤った裁定をした連邦地裁の担当判事の交代を命じる判決を下し、シー・シェパードの行為が「私的目的の暴力行為の明確な事例で、まさに海賊行為を具現化したものである」と判決文で述べ、日本鯨類研究所と共同船舶が求めていたシー・シェパードの妨害差止の仮処分を認める判断を下し、本件をワシントン州連邦地方裁判所に差し戻すとの判断を行っている。

しかしながら、シー・シェパードは、この仮処分命令を全く無視し、調査船団の船舶に十数回以上にも及ぶ異常接近や、船首前方でスクリューの破壊を目的にロープなどの投下、また意図的に船舶に体当たりを行うなど、航行妨害を行うのみならず、船舶の破壊、ひいては大事故にもつながりかねない危険極まる暴力行為を繰り返し行った。 裁判所の仮処分命令を無視したこのような妨害行為は、法治国家では到底許されない行為である。 我々は、これらの妨害行為を詳細に記録し、第九巡回区控訴裁判所に対して、法廷侮辱の申し立てを行う準備を進めている。




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これらの写真及び動画は、以下の(財)日本鯨類研究所ウェブサイトからも入手可能です。
http://www.icrwhale.org/gpandseaJapane.html


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(左)1. タンカーに体当たりするBB号 (2013年2月20日)
(右)2. タンカーに体当たりしてNMの針路を塞ぐBB号 (2013年2月20日)


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(左)3. NMに体当たりするBB号 (2013年2月25日)
(右)4. 写真3と同じ場面を船尾側から撮影 (2013年2月25日)


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(左)5. ワイヤーとロープを曳航して調査船のプロペラを狙うSSボート (2013年2月25日)
(右)6. SS活動家が手に持っている装置をNMの排水口に挿入した (2013年2月25日)


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